頑張ってた理由

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頑張ってた理由

「じゃあ、これから独り言を話すからヒトミちゃんは仕事に集中してて」  毎度、律儀に指摘する反応が面白い。  白田にとって、一美の名前をわざと間違えるのは一種のコミュニケーションで、本気で嫌がる素振りが少しでも感じられたら、すぐに辞めようと思っている。 「若いねぇ」 「これ以上、何を言っても無駄です」  そう言わんばかりに一美は一心不乱にパソコンと向き合っている。  新人の行動や気持ちが若いと思ってしまうのは、年をとったからせいだろうか。   「昔と今とじゃあやり方が違う。まぁ、そんなことは言われなくても、優秀なヒトミちゃんは存じていると思いますがね」    カタカタと一美がキーボードを叩く音と白田の声だけが二人しかいない静かなオフィスに響く。  タバコでも吸おうかと白田は内ポケットを弄るが、中には捨てそこなった空箱だけが残っていた。  いつからだろう。会社に対してやる気なくなったのは。  白田は窓から見える夜景を見ながら考えた。  営業部に部署移動させられ、外回りが増えたことで、考える時間が前よりも増えたせいか。
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