頑張ってた理由

2/2
前へ
/16ページ
次へ
「お前ごときが上長に口出しするな!」  飲み会の場で部長に叱責された時。  違う。  毎度、無礼講と言ってはいるが、忖度ありきの飲み会で酒が飲めない白田は周りに合わせる術を身に着けた。 「ホント、使えねぇな」  他プロジェクトから来た助っ人に悪口を言われた時。  これも違う。  やり方は人それぞれ。上は結果を出せば細かい事は気にしない。それは白田自身レポートを提出し、報告する度に感じている。 「白田さんの残業代、稼いできますか」  派遣先のエンジニアから悪意ある発言を聞いた時。  これは心に来たな、と白田は気分が落ち込んだ。  当時、管理部に所属していた白田は今の営業部とは異なり、稼ぐ部署ではなかった。管理部時代は新人や中途採用者の教育を任され、初めて人に教えるという経験を得た。  その時点では何も不満はなかった。  自分が教えた新人が現場に出て、配属先が活性化し、評価を得られれば最終的に会社の評価へと繋がる。  そう思っていたが、現場に出ているスタッフから直接言われたことで、何かが壊れた。  最初は憤りもしたが、傷心のあまり頑張っていたことが全て無駄なのではないかと疑問になる。  一度、抱いてしまった気持ちは偽ることができない。 「そうだな。強いて言うならコレが確実に引き金にはなった」  生きるためには、戦い続けなければいけない。  勝ちか負けかと問われれば、こう思うようになってしまった時点で白田の戦いは終わった。  残ったのは惰性だけだった。  生きているのか、死んでいるのかも分からない状態だ。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加