ザ・テンペスト

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 ***  勝負は、三回。三回とも、別々の種類のゲームが用意されることとなる。  私は連れてこられた場所を見て、少しだけ安堵してしまった。そこは四角いテーブルが並べられ、見慣れたトランプの山が積まれていたからである。いきなり綱渡りでもしろと言われることも覚悟していただけに、普通のトランプであることに多少拍子抜けしてしまったのは事実だ。 「今回の勝負。皆様には、“大富豪”をやっていただくことになりました。三回連続で大富豪を行い、三回目の段階で“大富豪”であった方をこのたびの勝者とさせていただきます」  ざわめきが起きる。私は思わず、同じように連れてこられた三人の男女を見た。背の高い美女が一人、小太りの男性が一人、中年の太った女性が一人。この場所にいるということは、全員が表の世界では手に入らない何かを求めたということだろう。  勝者が一人ということは。このうちの三人が、この場で敗者として地獄に落ちることを意味している。 「大富豪のルールは、皆様ある程度ご存知だと思います。山札のカードを全て四人にお配りし、先に全てのカードがなくなった方が勝者となります。階級は上から順に大富豪、富豪、貧民、大貧民。一回目の勝負で大富豪になった者と大貧民になった者が二枚のカードを交換、富豪と貧民もそれぞれ一枚ずつカードを交換します。この時大富豪と富豪は好きなカードをトレードに出せますが、貧民と大貧民は最も強いカードを差し出さなければいけません」  そう、このゲームは、アガリ順が早いほど次のゲームでも有利になるというルールがある。今回は三回戦うこととなる。大貧民から大富豪に成り上がることもできるが、一回戦から高い階級で上がれるに越したことはないのだ。 「強さの順番は、ジョーカー、2、A、K、Q、J、10、9……と下がっていきます。最弱のカードは3になりますが、スペードの3のみジョーカーに勝利することができます。この時、ジョーカーの二枚揃いに対してスペードの3と別のカードの二枚ぞろいでは勝利することができませんのでご注意ください。あくまで一枚で使用した場合のみ有効とします」  大富豪には、いくつもローカルルールがある。また、場合によってはメジャールールであっても採用されないものもあるだろう。今のスペードの3がジョーカーに勝てるというルールもそのうちの一つだ。  バーテンダーは以下ルールを説明した。 ①ジョーカーを他のカードの代わりに使用することはできない(2とジョーカーを用いて、2の二枚ぞろいにする、などのやり方はできない)。 ②8切りあり(8は出せる条件が整えば、出した段階でその場を切り上げ強制的に親になれる)。 ③階段あり(8、9、10、などの三枚以上のカードで数字が連続した場合、階段と称して出すことができる。この場合次の人は9、10、11以上の階段しか出すことができない。なお、この場合8が含まれているので8切りは有効である)。 ④縛りなし(同じマークのカードが続いた場合、三人目以降も同じマークしか出せなくなるルール。採用されるケースもあるが今回は不採用)。 ⑤革命あり(同じ数字のカードを四枚出して、強さの順番を逆転させることができる。ジョーカーが最強であることは変わらないが、2が一転して最弱となり3が最強となる)。 ⑥革命返しあり(革命された後、さらに四枚揃いを出して強さの順番を再度逆転させること)。  見慣れたルールばかりだが、油断は禁物だ。なんせ、全員が命か、あるいは命と同等のものを賭けてこの場にいるわけなのだから。 「それでは、皆様じゃんけんをしてください。勝った人を最初の親とし、そこから時計回りの順番でカードを出していくこととします。よろしいでしょうか?」 「はい」  勝負は、淡々と始まった。雑談する者はいない。そんな余裕もない。自分達は、殺し合いをしているも同然なのだから。 ――やってやるよ……!何がなんてもこの戦いに勝ってやる。円香のために!
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