ザ・テンペスト

4/4
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「馬鹿なやつ……!か、革命したままにしておけば、4の二枚ぞろいとかで使っても強かったっていうのによ!」  中年男が負け惜しみを言う。どうやら、まだ自分の状況に気づいていないらしい。  その通り、革命したままでも強かった4四枚を、何故私がここで革命返しを起こしてまで処分したのか。いや――処分できたのか。何故そこに思い至らないのだろう。  そんなんだからこんな所に堕ちてるんだよ、と私は内心嘲笑する。娘を救う為には悪魔にもなると決めたのだ。人の心を捨て――かつて足を洗った、アンダーグラウンドなギャンブラーとして、再び手を汚すことになったとしても、だ。 「馬鹿はどっちだろうなあ?」  四枚揃いなど、そうそう出せるものではない。親になった私はそのまま階段を出す。エースの7、スペードの8、スペードの9――つまり、8切りの条件は整っている。再び親。私のカードはこれで残り、五枚。大富豪の女の手札は三枚だが、それでも私は勝ちを確信していた。何故なら。 「私の勝ちは決まったも同然、と思っているんだけどもね?」  Jの二枚揃いを出す。革命時に、絵札を処分しにかかってしまっていた三人はこれさえも出せない。いや、一枚だけならJに勝る札を隠している者もいるだろう。だが、二枚ぞろいは二枚ぞろいでしか出せないルール。Q以上の二枚ぞろいを持っていなければ、親にはなりようがない。そして。 「ジョーカーは二枚とも出ていない。だから、まだこれに勝る札もないわけではない」  次に出すのは、2の二枚ぞろい。Jの二枚ぞろいに対抗できなかった者達が、手を出せる札ではない。唯一勝てるのはジョーカーの二枚ぞろいのみだが――そのジョーカーの片方は、私が持っている。つまり。 「チェックメイトだ」  私は最後に、あえてジョーカーで終わらせた。革命返しから、連続で親を取れる流れを作る。大富豪でこの流れを計算して出すことができれば、まさに必勝パターンと言っていい。  三人のプレイヤー達が、悲鳴と共にテーブルに突っ伏した。バーテンダーが声を上げる。 「おめでとうございます!勝者、早坂様です!」  最初の戦いは、こうしてあっさりと終了した。私は泣き叫ぶ三人がどこかに連れて行かれるのを見ながら――その場を後にしたのである。  今回はたまたま、自分が得意とするトランプゲームであったからいいようなものの。二回戦以降がどうなるかは、まだ神のみぞ知るところだ。それこそ、電気イス耐久レース、なんて痛みを伴うものや怪我をするようなものが出てくる可能性も十分有り得るのである。  そして、そのたびに必ず誰かが蹴落とすことになる。誰かを地獄に落として、自分は天国への階段を登るのだ。娘のため、その名目だけを掲げて。 ――やってやるよ。……あの子のためなら、なんだって。  嵐は、吹き荒れ続ける。  私の負けられない戦いは、まだ始まったばかりなのだ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!