30人が本棚に入れています
本棚に追加
「え、誰?」
「緑彩花」
「マジで!」
驚く亜紀。その様子が由美にとっては余りにも不謹慎に見えて、少し憤っている表情を亜紀に見せた。それを見た亜紀はすぐに彼女の心情を察する。
「ごめん、由美。あなたにとっては大切な作家さんだものね」
「こちらこそなんかごめんなさい」
ここから更に話をした二人はやりとりを終えた後に昼から会う約束をして、それぞれ教習所の校舎の中へと入った。
由美は自分の教室へと入った。由美はペンと消しゴムとノートを魔法陣を作り出してその向こうから取り出し、ノートを広げて授業の準備をする。この物を別の場所から取り寄せる魔法は彼女が一週間前に覚えた魔法であった。彼女は自分がまた一つできる魔法が増えたことに喜悦の表情を浮かべる。だが、その表情は一瞬にして重い表情へと変わった。彼女の頭の中は喪失感で溢れている。それでも、できるだけ今のことに集中しようと彼女は気を張った。
講習が始まった。今日の内容は自分のいる場所と別の場所を繋ぐリングを作る魔法の習得だった。講師が魔法の使い方と扱う上での注意すべき点を説明している。
「ええと、この魔法は移動に使う魔法なのだけど、この魔法で海外に行くときは必ずパスポートを持った上で、入国審査場へと行ってください。そうしないと、不法入国で捕まります」
講師は淡々と説明をする。由美は講師の話を聞きながら、教科書の同じ内容の項を読んでいた。
「これは難しそうだな……」
由美が小さな声で呟く。この魔法は魔法を使い慣れている人にとっては簡単な魔法であるが、初心者には少し高度な術で習得するまでにかなりの練習を必要とするものだった。
実習の時間となり、生徒の各々が先程習った魔法を使うため、手から魔法陣を出す練習をしている。由美もまた、魔法陣を出そうと手を動かしている。だが、思うように魔法陣が作り出せない。すると、そこへ講師が彼女の横へとやってきた。
「おや、松永さん、いつもはさらりとできるのに」
「え、ああ……。すみません」
「いや、謝る話ではないよ。この魔法は最初の内は行きたいと思う場所をしっかりと思い浮かべないと、他のこと考えてたりするとできないんだよ」
「雑念を払うということですよね……」
最初のコメントを投稿しよう!