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はりきり月曜日
携帯のアラームをワンコールで止める。
良かった、三姉妹はまだ寝ている。
パパ特製の朝ご飯でも食べさせてやろうと、30分早くアラームをセットしていた。
自由な1日の始まりに、寝覚めはいい。上の二人を送り出して、花と公園にでも出掛けよう。
さあ、料理開始だ。
流し台で手を洗おうとして愕然とする。夕食の食器や鍋がそのままだ。当たり前か。それを片付けるべき人は、僕なのだ。
仕方がない、まずは洗い物からだ。スポンジを泡立てたところで、シンクの中央に炊飯釜を見つける。
しまった!ご飯を炊いていない!
余裕を持っていたはずの時間が急になくなる。急いで釜を洗い、米をとぐ。
結婚前、一人暮らしをしていたとき以来だな、そんなことを考えながら炊飯器にセットし、早炊きのボタンを押した。
洗い物を終えて時計を見ると、すでに桜と桃を起こす時間だった。
ちらり。
ひろみがストックしている、インスタント味噌汁やスープが入った籠を見る。
『手抜き籠』
心の中でそう名付けていた籠は、今や『神様籠』だった。
「どれでも好きなの選んでいいぞ」
「やったー!」
桜と桃が『神様籠』の中から選んだ袋を開け、湯を注ぐ。大丈夫、父親の威厳は、まだ保たれている。
桜と桃の朝ごはんの間、机の上にひろみが残した紙を見る。
『毎日すること』と書かれた紙が一枚と、月曜日から金曜日まで曜日ごとに一枚ずつ、計六枚ある。
『月曜日』の紙を手に取ると、縦に時間、横に桜、桃、花と区切られ、スケジュール表になっていた。
『桃、月曜セットを忘れずに(幼稚園のプリント参照)』
月曜セット?何だ?幼稚園のプリント?どこだ?
もはや謎解きの暗号だ。
「もう、パパ、しっかりしてよね」
桜が冷蔵庫のプリントを見ながら手際よくシューズや帽子を黄色い袋に詰める。さすが、頼りになるのはお姉ちゃんだ。
やっと二人を送り出し、再度『月曜日』の紙でスケジュールを確認する。
枠外の赤い丸印、何だろう。
『資源ゴミ、二週間に一度なので忘れずに』
時計を見ると、収集時刻までもうわずかだ。くそっ、せめてまとめておいてくれよな。ブツブツ言いながらビン・缶用のゴミ箱を開けると、ほとんどが自分で飲んだビールの空き缶だった。
それから、やっと朝食だ。ご飯とスープを用意し机に座ると、『毎日すること』の紙が目に留まる。
洗濯の項目。はいはい、わかったよ。とりあえず洗濯機を回しておこう。再度立ち上がる。
ええと、洗剤の量は…柔軟剤はどこだ?
洗濯機と格闘中、二階から泣き声が聞こえてきた。
花が起きたのだ。
「花、何食べたい?」
重くなったオムツを脱がせながらきく。
「たまごごはん」
そうか、ひろみが言っていた、今は『たまごごはんブーム』なのだ。
「よし、パパが作ってやるぞ」
キティちゃんパンツを手に取りながら応える。
いや、まてよ、ここはもう一度オムツにしておこう。
キティちゃんを戻し、新しいオムツを履かせる。
花に『たまごごはん』を作って食べさせている間に、僕はすっかり冷めきったご飯とスープをかきこんだ。
再び流し台には四人分の食器が溢れていた。花に子ども番組を見せ、半分やけくそで洗い物をする。
ホッと一息つき、花の隣に座ったとたん、
「ピーッ」
洗濯機が僕を呼んだ。
こうなれば、昨年、ひろみに言われてしぶしぶ買った乾燥機付きの洗濯機は、強い味方だった。
『毎日すること』の紙の注意事項にある、乾燥機にかけてはいけない洗濯物だけを取り出し、乾燥ボタンを押した。
気づけばもう昼前だ。
「花、何食べたい?」
「たまごごはん」
そうだった。
でも二食続けていいのか?まあいいか。
二人分の『たまごごはん』とインスタント味噌汁を作り終えたとき、携帯電話が鳴った。
「大丈夫?」
ひろみだ。
「桜と桃は行った?花はいい子にしてる?」
「大丈夫だよ。元気に行ったよ。花もいい子でご飯食べてる」
本当は助けを求めたかったが、自信満々に送り出した手前、何も言えない。
「そっちはどう?」
向こうの様子をそれとなく尋ねる。
「やっぱりブランクがあるからね。大変だけど、だいぶ勘はもどってきた感じ。大丈夫よ」
久しぶりの仕事だ、ひろみも無理しているに決まっている。
「じゃ、たけし、頑張ってね」
「ひろみもな」
電話を切ると、ご飯粒をつけた花がスプーンを握ったまま寝ていた。
『花、一時ごろ、昼寝』
そっと隣の和室に連れていき、タオルケットをかけた。
「いらっしゃいませえ」
花の遊ぶ声で目が覚める。
しまった!一緒に寝ていたのか。
あわてて時計を見ると、もう3時前だった。
良かった、桃の園バスの時間にはまだ間に合う。明日からのために、この時間にアラームをセットしておこう。
いつの間にか桜も帰ってきて、気づけば晩御飯の時間が迫っていた。
奥の手にとっておきたかったが…
仕方がない。
「よおし、晩御飯は出前にするぞー!」
「やったー!」
三姉妹が声を上げた。
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