ハプニング水曜日

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ハプニング水曜日

「パパ、アラームなってるよ!」 「おお、ありがとう」  今日は桜に起こされる。すっかり三人とも起きてしまい、楽しそうに階段をかけ下りる。  何で子どもって朝から元気なんだろうな。 一番後ろを下りながら思う。さすがに体が重い。 「はな、きちぃちゃんするー」 手にはキティちゃんパンツ。 そうか、しばらく履かせていない。 「オムツばかり履かせてると、楽だから、すぐオムツに逆戻りしちゃうのよね」 ひろみの言葉を思い出す。危ないところだった。 花、よくぞ気づいた!  たまごごはんを作ろうかと思ったが、すでに卵を切らしていた。ふりかけご飯を花の前に置きながら、急に栄養が心配になる。桜と桃には給食があるが、花の食事は僕にかかっていた。 「花、牛乳飲むか?」 「じゅーにゅーのむー」 牛乳もコップ一杯で空になった。 『水曜日』の紙には『火曜日』から引っ越してきたポイントカードが貼られている。裏に『卵、牛乳は絶対に』と書かれた付箋紙。 さすがだよ、ひろみは。 今日の任務は買い物だな。 「はながおすのー」  スーパーにつくと、まだ手の届かないカートに花がぶら下がる。 「花はこっちだろ」 いつかひろみがしていたように、チャイルドシートつきのカートに花を座らせる。  今日こそは晩御飯を作らないとな。 カレーでも作るかと、人参、じゃがいも、玉ねぎ、それから肉もカートに入れる。 惣菜コーナーで弁当を見つける。同じように弁当を見つめる人と「安いですね」なんて言いながら、昼用に花が好きそうなハンバーグ弁当を手に取った。  レジ前で並んでいると、 「キティちゃんがでる」 花が言う。 しまった! 今はオムツを履いていない! 会計は次だが、仕方ない、後で並び直しだ。 カートを猛スピードで走らせ、花を抱き下ろすと、バリアフリートイレへ駆け込む。 「はじめてしたの」 自慢げに花が言う。間に合った。 偉いぞ、花!  ひろみに自慢できることが一つできた。  早起きしたせいか、帰りの車で花は寝ていた。起こすのも可愛そうなので、そのままお昼寝にする。  食材を仕舞おうと冷蔵庫を開けると、人参もじゃがいもも、肉まですでに揃っていた。つくづくダメだなと思う。仕方ない、大盛カレーを作ろう。  一人で弁当を食べていると、花が起きてきた。 「パパ、キティちゃんつめたい」 しまった! オムツに履き替えさせていなかった… キティちゃんを濡らしたものはズボンを通り越し、タオルケットまで及んでいた。 「ごめんなさい」 僕の様子をみて叱られると思ったのだろうか。 「ママ…ママあ」 ママと離れて初めて、花が泣いた。  違う、悪いのは僕だ。花は頑張ったのだ。初めて外出先でトイレにも行けた。それなのに僕のせいで、頑張った日が失敗した日になってしまった。 泣きじゃくる花を抱きしめて、思わず僕も泣いていた。  花はハンバーグも食べなかった。買ってきた卵で作った『たまごごはん』も、半分以上残した。 「よし、花カレー作るぞ!」 「はなかれー?」 大量の食材を取り出し、玉ねぎを花にわたす。 「白いのが出るまでだぞ」 「うん」 花は玉ねぎの皮をむく。 人参を花の形にくり貫くと、やっと花が笑った。  晩御飯、桜と桃にトイレと『花カレー』の話をした。 「花が作ったの? おいしい!」 「トイレも行けたの? すごいね!」  お姉ちゃん達にほめられて、花はカレーを沢山おかわりした。
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