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それから。
”前述の事柄に続いて、あとの事柄が起こることを表す”。
それから。
”前述の事柄に加えて、あとの事柄を示す”。
なんて、なんて未来のある言葉なのだろう。たった四文字の、未来と過去が約束される絶対の接続詞。
幾多の選択肢によって世界は常に分岐している。たとえば、食事をするときカトラリーをそろえるか箸だけを置くか、そんな選択肢でもわずかな分岐は起こっているわけだ。
ではこれが大きな分岐だとしたらどうだろう。
あの戦争が起らなかったら、あの事変が起らなかったら。
逆に、ありえなかったはずの何かが起きてしまったら。
――僕はそういう未来も過去もない場所にいるんだけどね。
”未知の”化学兵器でこの区域は全滅だ。生きている人間をなんとか保護隔離するだけで手いっぱい、治療回復すらままならない、反撃とか防戦とかそんなのは二の次だとも。駆けずり回って今日は十五人、たった十五人見つけて保護しただけだ。傷を負った者、錯乱し続ける者、いろんな患者をなんとか説得したのはまあ、褒めてほしい。手当もわりとしたわけだし。
そう、ここの人類は三度目の過ちを犯した。いや、犯しているというのが正しい。
僕だってふらっと立ち寄った場所が戦地とか本当にどうにかしてほしい。ずっと無窮の極地でのんびりしていたのに。でもこういう場所が嫌いじゃないのも事実だ。だってここには過去と未来がある。さっきの患者も誰かを助けようとしていたみたいだし、昨日の患者は自分の国の過去の景色を写真として見せてくれたし。そういうの、とっても綺麗だからね。
過ちを犯さないと美徳が現れないのはまあ神様がうっかりしたんだろうね。
空が煙で曇っている。晴れているはずの青さは灰色がかっていた。この様子だと一年もせずにおそらく人類は戦争をやめると決断するだろう。僕の役目もそろそろだ、またどこかの選択肢を眺める作業に戻らなければ。
「エディ、エディ?」
あれ、まだこの地区誰かいた?と声のほうを見た。
「ああ、違う。ごめんなさい、人違い……」
焦げて縮れた金髪の少女がうつむいて、ええと、そう、悲しそうな顔をしていた。
足は裸足同然でガラスが刺さっている。だというのに人違いといった後あわてて逃げようとするから職務以外のことをしてしまった。
「待って君、怪我してるじゃないか」
自分でも僕ってこんなことするっけ――?と思ったが。
「これでも僕医者だし。どこか行くにしても手当は必要だろう?」
病院の跡地に隠れながら簡単な消毒と治療を施していると少女はぽつぽつと先ほど口走ったエディという言葉について説明した。
「エディ、兄……兄なんです。この地区にいるはず、なの。おいしゃさまと似ていて、そう……」
「ここの地区で生きている人はみんなもう保護区に移送されたよ、僕はその後見回りだったってわけ。君も保護区に行くのがいいと思うけど、どう?まだ探す?」
少女は頷いた。彼女にとってはだいぶ危険なはずだけど。
「――で、一緒に来ちゃったなあ」
夕刻に差し掛かっている。この地区は夜に敵襲が多かった地域だ、そろそろ危ない時間帯なのだが、少女は念入りに見回っている。
「だれも、いないです」
ちょっとがっかりしたような不安げな表情をして見上げてくる。
「ついてきてくれて、ありがとう、おいしゃさま」
「はは、僕の職務もついでに全うできてちょうどいいよ。保護区に行く、でいいのかな」
ようやく彼女はそれに頷いた。
そこから移送車と合流して彼女を引き渡し、少女は僕から車が離れていってしまうまで「おいしゃさまはいかないの」としきりに振り向いてきた。
行かないよ、ここに僕が行く場所なんてないし。
あの子が保護区に着いてからエディくんに出会えたかはわからない。でも彼女がどうなったのかは知っている。彼女の演説で戦闘は全部終わって、僕はその世界を離れようとしたんだからね。
「■■■■」
今、その世界を離れる刹那、あの子の声がして、僕の名前が呼ばれた。
キミ、ああ、キミだったんだ。
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