19人が本棚に入れています
本棚に追加
いざとなると弱気になる――。
来宮が長谷部に下した評価は正しかった。
各務の知られざる一面を知ったからといって、すぐにどうこうできるものではない……などと言い訳しているうちに、一週間近くが経過していた。
しかも今日はLHR――悪夢のドッジボールが行われる。
前回、中断したために仕切り直しとなったのだ。馬鹿みたいに晴れた四月末日、グラウンドに出た級友たちは、どいつもこいつも呑気そうにへらへら笑っている。動けば暑いくらいの陽気に、多くの生徒がシャツをたくし上げて時間潰しの遊戯に備えていた。
だらけ切った空気の中で、一人気炎を吐いているのは言うまでもなくブートンである。各務は……確認する勇気すら湧かなかった。
力になってあげたい。
そう思う気持ちに嘘はない。なにせ玲士に頼まれたのだから。友人だと誤解されたのは予想外だが、否定できる状況ではなかった。
肩に置かれた腕の重みを思い出して、気持ちまでもが重くなる。
(あいつ……また、狙う気かな? いやいや、いくらなんでもないだろう。……あいつでも、『死ね』とか思うんだな……。ああいうタイプが怒ると、根に持ちそうっつーか……)
迷妄中に名前を呼ばれ、怒りに満ちた顔で振り向いた。
「んあ――っ!!」
「なんだよ、その反応は。傷つくなぁ。俺ってそんなに怖いか?」
爽やかな笑顔は、今の長谷部には劇薬に近い効力を発揮する。玲士とその仲間たちは、授業中にも関わらず、くつろいだ様子でたむろっている。
デカめの高校生軍団の登場に、級友たちは蜘蛛の子を散らすように離れ、長谷部の半径数メートルはぽかりと開けた。
「こらこら! なんだ、お前らは! 授業はどうした!? ん!? 先生も学生時代はよくエスケープしたけどな!」
「メー子ちゃんが急な体調不良で授業中止なんですぅ。ツワリですかねぇ? 自習だから図書室でも行こっかなーって」
「なに言ってんだ! ちゃんと八木先生って呼べ!」
大声で笑い、理解ある教師ヅラを示すブートンに、高校生たちはにこやかに会釈した。八木教諭は最近、結婚したばかりである。ツワリ……妄想ばかりが膨らむ中坊よりも、大人に近い彼等の方がまだ扱いやすいのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!