されど、空の青さを知る

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 ドッジボール事件・第二話『ブートンの悲劇』……後世に語り継がれるべき由々しき出来事は、あっさりと闇に葬られた。 「皆で訴えたんだよ。ドラフト制度は納得いかない、って。俺と金沢だけじゃない。誰が言い出したわけでもなく、自然と一丸になってた」 「教師が生徒を値踏みするのか! ……とか、モンペに乗りこまれたら学校も面倒だもんな」 「本当の意味での反面教師」   事件翌日の朝、登校中に一緒になった友人たちと笑い声を上げる。労いも励ましも一切無く、いつも通り長谷部の背中をバッグでどついた彼等の挨拶が身に染みた。 「長谷部も姫も、大したお咎めが無くて良かった。……でも、昨日のアレは許せない」 「そうだぞ。ぬけがけは許さん。いつの間に松田先輩たちと親しくなったんだ。しかも、あの後――」  あの後――。  一人で責任を負う覚悟を決めていた。事実、非は自分にある。長谷部が提案して協力しなければ、各務にあんな真似はできなかったのだから。  放課後、加害者二名は早速、学年主任の()(くら)に呼び出された。 「悪ふざけを大目に見てやるのは一度切りだ。二度目はない。よく覚えておけ」  開口一番、小倉が重みのある牽制球を投じた。国語担当でもある還暦目前のこの教師は体格こそ小さいが、厳しさでは右に出る者はいない。  威厳漂うベテラン教諭の隣で、ブートンは虚勢された豚のようにおとなしく身を縮めている。鼻先が少し赤いが目立った外傷は無い。その不様な姿を見て改めて罪悪感が湧いたが、もはや手遅れだ。 「上級生にけしかけられたからといって、宇部先生にボールをぶつけるふりをするとは何事だ。くだらない誘いにうかうかと乗るんじゃない。そうまでして場を盛り上げたり、注目されることが大事なのか? まったく……理解に苦しむ」  小倉の文句に二人は揃って顔を上げた。 「え……? 上級生って……誰のことですか?」 「決まってるだろ。松田たちだ。先ほど職員室に来た。『面白半分で(あお)っちゃいました』だと。高三にもなって……ったく。まあ、運動部の最上級生たちから指図されて断れなかった君たちの立場は理解しよう。悪い冗談を真に受けただけ。……それで間違いないな?」 「違います」 「違いますっ!」  輪唱と同時に左足に蹴りをくらい息が詰まった。(すね)はアカン! 脚を押さえている間に各務は口を開いていた。
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