クリストファー・ヴァン・ストーカーの日記 二日目

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 それにもう一つ。住民達の誰に訊いても、ノスフェル卿の正確な年齢がわからないのである。  まだ20代だとか、いや30代、もっと上で40だとか、答える者によっててんでバラバラなのだ。  さらに長く50年前から伯爵を見知っているが、その当時からぜんぜん見た目が変わっていないなんて言う老人までいた。  それには「いや、そうじゃない。それは先代のノスフェル卿で、まるでそっくりだが、今のはその息子さんだ」などと説明する者もあったが、どうにも怪しい。  ノスフェル伯爵は何十何百という遥かな歳月を、年もとらずにこの地で生きているのかもしれない。  さて、これらの話を総合するに、やはりあのジプシー達が言っていた通り、ノスフェル伯爵はヴァンパイアであるという結論に当然ながら至るであろう。  にも関わらず、田舎者で無知蒙昧なここの住民達はまるで疑うような様子もなく、それどころか、ちょっと疑いの目を向けただけなのに、逆にこの俺様に対して「伯爵に無礼なことを言うな!」とブチ切れたりまでしている。  そこで俺は、親切にも身近に迫った危険を知らせる意味も込めて、思い切って「ノスフェル伯爵はヴァンパイアかも知れない」と、店の客達に言ってみたのだが、これがいけなかった。  客達はそれまで以上に激昂し、俺を店から放り出したのである。  まったく。悪魔の手先であるヴァンパイアの味方をして、正義の代弁者たるヴァンパイア・ハンターを足蹴にするとはなんと愚かな者達なのだ!  まあ、愚かな田舎者のことはともかく、これで十中八九、ノスフェル伯爵がヴァンパイアであることは明らかとなった。そうとわかれば、後は相手の根城に乗り込んで引導を渡してやるまでだ。  が、ただ一つ。疑問に思われることもある。  店で聞いたところでは、この町でも周辺の村々でも、ここ数十年来、ヴァンパイアに襲われたなどという事件は一つも聞いたことがないのだそうだ。  ノスフェル卿がヴァンパイアだとすると、彼は必要な血液をいったいどうしているのだろうか?  ヴァンパイアならば、人間を襲って血液を吸うのは必定。  そこには、何かうまいこと事件を隠蔽しているカラクリでもあるのか? それとも、伯爵はどこか噂も届かぬ程の遠方の地まで行って、哀れで非力な獲物達を捕えているのだろうか?  ま、その辺は後で調べればなんかわかるだろう。  とにかく、今日はこれから準備ができ次第、いよいよ敵の根城へと乗り込む!
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