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Ⅱ 寝起きドッキリ
――ギィィィィィ…。
あの男が、初めて我が城に姿を現したその日……。
その日も、心地良い柩の開く音とともに私の夜は愉快に始まる……はずであった。
私は朝から日没にかけて、柩の中で眠ることを常としている。
と言っても、私は別に死んではいないので、死体のように柩に納まっていなければならない義理も必要性も特にないのだが、あの遥か遠い日、一度、死んだものと思われて土の下に埋葬されて以来、どうにもベッドで横になるより、このように柩で寝た方が安眠できるのだ。
あの時の永遠の安らぎを得たような心地良さが癖になったのか、この完全なる闇の暗さと密閉間がなんとも堪らない。
ヴァンパイアとして生きてはいるが、人間としては一度死んだ身ではあるので、なにかこう、むこう側の文化というか、あちら側の雰囲気がしっくりくることは確からしい。
そうして、私は聞き慣れた柩の蓋の軋む小気味良い音を夢現の中で耳にする……。
しかし、ふと考えてみると、私は別に柩を開けたりなどしていない。
では、なぜ、柩の蓋が勝手に開く?
そう、思った瞬間!
ドス…!
「ギャアぁぁぁぁぁーっ!」
私は胸に突然の激痛を感じ、悲鳴を上げて跳び起きた。
「痛っっっ……」
何が起こったのかわけもわからず、痛みの走る自分の胸を見てみると、木の杭が心臓のある所の上に突き立てられ、そこに開いた穴からは大量の血が噴き出している。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
その血を拭った手を見つめ、動揺する私の耳に、
「やった…やったぞ! ついにヴァンパイアを見事しとめてやったぞ!」
今度は興奮する男の声が傍らから聞こえてきたのである。
「だ、誰だお前は!? 他人の家でいったい何をしている!?」
私はひどく驚いた表情でその声のした方向を見つめ、問い質す。
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