Ⅱ 寝起きドッキリ

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 そこにいたのは、長い茶色のマントに身を包み、頭にはトラベラーズハットを被った一人の若い男だった。  物騒にも背中には長い剣を背負っているらしく、その柄と棒状の鍔が右肩の上に覗いている。  その姿に私は最初、押し込み泥棒か、強盗殺人犯か何かの類かと思った。  しかし、彼は、 「ハハハハハハ! 死出の旅への土産に教えてやる。俺の名はクリストファー・ヴァン・ストーカー! 現在売り出し中のスーパールーキー・ヴァンパイア・ハンターだ!」  と、名乗ったのである。  ヴァンパイア・ハンターとはまた……昨今珍しい、もう絶滅したかと思っていた職種である。その名前に、なんか、往時を忍び、懐かしさ(ノスタルジー)さえ感じる……。  しかし、これで得心がいった。どおりで私の胸に木の杭が刺さっているわけだ。 「今夜、貴様を狩って、これで俺も本物の吸血鬼(ヴァンパイア)を退治した一人前のヴァンパイア・ハンターだ! ハーハハハハ!」  そのなんたらストーカーという男は、ようやく現状を理解して呆れ顔を浮かべる私を見下ろし、高らかな笑い声を広い城の中に木霊させている。 「さあ、何か言い残すことはないか?俺の初仕事を記念して、特別サービスで聞いてやるぞ。なんなら、最期の祈りでもしてやろうか?どうだ、遠慮するな?」  さらに男は勝ち誇ったような顔でそんなことまで言ってくる。  ……だが、たいそう満足げな彼に申し訳ないが、私は水を注す。 「よいしょ…っと」  私は胸に刺さった杭を右手で握ると、力を込めてズボっ…と引き抜いてみせる。  そして、それをコロンと石造りの床に転がすと、白けた目で彼を見つめて言った。 「お喜びのところ悪いんだが、私にはこんなもの効かないよ」 「…………えっ?」  その予期せぬ言葉に男は一瞬、ポカンとした表情になる。 「……な、なんだ。ただの負け惜しみか。俺はヴァンパイア・ハンターだ。そんなこと言っても、貴様らの弱点はちゃんと知ってるんだぜ」  だが、すぐにそれを私の嘘だと解釈したらしく、再び自信に満ちた笑みを取り戻すと、瀕死の獲物を見下すような目で嘯いてみせる。
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