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「いや、残念ながら、負け惜しみではなく事実だ」
しかし、男の勝手な解釈に反し、それはけして嘘ではない。
無論、出血はするし、多少の痛みは感じるものの、世間でイメージされているヴァンパイアのようにそれで滅することもなければ、無論、普通の人間のように心臓を刺されたくらいで死ぬこともないのである。
「ほらね」
信じぬ男のために、私はしょうがない、棺の中から悠々と起き上がって見せた。
「がぁ…!?」
それを見た瞬間、男は口を大きく開け、驚愕の表情で固まる。
「そ、そんなバカな……確かにヴァンパイアは心臓をセイヨウサンザシの木の杭で貫かれれば死ぬはず……」
「あのねえ、確かに巷じゃそう云われているけど、そんなのは迷信の類であって、本当のことじゃないの。ほら、実際、こうして私も無事なわけだし」
目を大きく見開き、うわ言のように呟く男に、私は駄々をこねる子供を諭すような口調でそんな言葉をかけてやる。
確かに世間一般では、セイヨウサンザシやトネリコ、ビャクシン、クロウメモドキなどの種類の木で作った杭で心臓を貫けば、ヴァンパイアを倒すことができると云われているのだが、実はそんなもの、ただの迷信なのだ。
それは現にヴァンパイアである…しかも、たった今、その木の杭で心臓を貫かれたばかりのこの私が言っているのだから、間違いない。
「それに、だいたい君はあまりにも無礼じゃないのかね? 他人の家に勝手に侵入して、寝ている主人の胸に杭を打ち込むなんて、これ、普通に考えたら不法侵入の上に殺人未遂だよ? まあ、私は不死のヴァンパイアだったからよかったけど……っていうかね、君らのそういう、ただヴァンパイアだからってだけで退治しようとするところよくないよ? ヴァンパイアにだって人間を襲うような者もいれば、普通に共存してる者だっているわけだし。この私だって、人を襲って血を吸うようなことはしてないんだからね!」
私は浮かんでくる文句をそのままつらつらと彼に述べる。
目を覚ましてから少し経ち、意識がはっきりしてくるにつれて、なんだかこの非常識な男の行動に怒りが込み上げてきたようだ。
「あ~あ、これじゃ、せっかくの服が台無しだ……」
不快げな皺を眉間に刻みながら、私は穴が空き、血で赤黒く染められた自らの白いシャツを引っ張ってみせる。
そうなのだ……いきなり心地よく眠っているところを心臓に杭を打ち込まれて起こされ、しかも、服を一つダメにされたのである。
これは頭にくるのも当然であろう。
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