クリストファー・ヴァン・ストーカーの日記 三日目

2/3
前へ
/82ページ
次へ
 鍵はかかっていたが、そこはそれ。この程度の鍵ならば、針金一本で容易に開けられる……いや、もう一度断っておくが、これはヴァンパイア・ハンターとして必要な技術であるから身につけているのであって、けして金持ちの家に忍び込んで、金目の物を拝借しようとか、そんな目的のためではない。いや、本当だ。信じてほしい。  ま、まあ、時折、生死に関わるほどの飢えに陥った緊急の場合にのみ、已む無くその禁断の方法を用いることもあるが……。  ともかくも、そうして俺は無事に城内へと侵入することに成功したのだった。  中には人っ子一人、人の気配はなく、運がいいことに使い魔などもいなかった。  ただ、厨房にどっかの黒い野良猫が入り込んでいて、突然、暗闇の中から飛び出してきたので少々ビビったが、ヴァンパイア・ハンターとしては人に知られると恥ずかしいので、このことはここだけの話にしておこう。  それはさておき、邸内に侵入した俺は、照明のために持ってきたランプに火を灯し、外から見た時に、おそらくかのヴァンパイアの寝室だろうと目星をつけておいた部屋を目指して、暗い城の中を進んで行った。  三階にあるその部屋へは螺旋状に作られた石の階段を上るとすぐに行くことができ、部屋のドアにも鍵はかけられていなかったので、難なく中に入れた。  まったく油断しまくりで不用心極まりないが、これはヴァンパイア・ハンター界のスーパールーキーたるこの俺に、いい初仕事をさせてやろうという神の思し召しに違いない。  そして、足を踏み入れたその部屋の中央には、案の定、俺様の予想通りに、大きく不気味な棺桶が一つ置かれていた。  やはりここが、目指すノスフェル伯爵の寝室だ。  窓の外を見ると、もうすでに日はとっぷりと沈んでいる。もうすぐヴァンパイアが活動を始める時刻だ。  本格的なヴァンパイア・ハンターとしての初仕事で、ようやく本物のヴァンパイアを見付けたこの感慨に浸りたいのは山々であるが、そんな悠長なことをしている場合ではない。急がなくては伯爵が起きてしまう。  俺は早速、ヴァンパイア退治の仕事を始めることにした。  その重厚な木でできた棺桶に近付くと、重い柩の蓋をゆっくりと開ける。  すると中には、一見、普通の人間と見分けがつかない、紳士然りとした風貌のノスフェル伯爵が、死体のように青白い顔をして横たわっていたのだった。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加