クリストファー・ヴァン・ストーカーの日記 三日目

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 パッと見、上品で善良な人間のようにも見えるが、こんな棺桶の中で寝ているのがヴァンパイアである何よりの証拠。  俺は油断なく、敵が目を覚ます前にと、持って来たセイヨウサンザシの木で作った杭とハンマーとを素早く取り出し、それを伯爵の心臓目がけて力一杯に打ち込んだ。  こうしたセイヨウサンザシなどの聖なる木で作った杭を心臓に突き刺せば、いかな不死身と云われるヴァンパイアとてひとたまりもないのである。  だが、ここで予期せぬ事態が起きた。  なんと、木の杭を心臓に突き刺したのにも関わらず、伯爵はまるで死ななかったのである!  いや、死なないどころか、自分で杭を胸から抜いて、ピンピンした様子で棺桶から起き上がりまでしやがった。  これはいったいどういうことだ? 杭の刺さり方が浅かったのか?  それとも、今になってよくよく考えてみると、ここルーマニアの最もポピュラーなヴァンパイア〝ストリゴイ〟は心臓を二つ持っているのだというが、もしかして、ノスフェル伯爵もそのストリゴイだったのか?  しかし、その時は突然の予想外の出来事に、そんなことにまで考えが至らなかった俺は、こんなこともあろうかと用意をしていた第二の手段に打って出ることにした。  第二の手段――それは、教会で司祭に祝福してもらった十字型の剣で、ヤツの心臓を貫くというものだ。  俺は持っていたハンマーを投げ出すと、普段から背中に背負っているその長大な〝祝福された剣〟の柄に手をかけたのだったが、ここでまた、俺は予期せぬ出来事に見舞われた。  いきなり怒り出した伯爵が不意にこちらへ近付いて来たと思うやいなや、俺の胸ぐらを摑むと、口を開く間もなく窓から外へと放り投げたのである。  次に気付いた時には、三階の高さから真っ逆さまに地面目がけて落下しているとこだった。  運良く、途中、庭の木に引っ掛かってワンクッション置いたお蔭でなんとか助かったが、それでも全身ひどい打撲である。  ほんと、もう少しで死ぬところだった。  あのスカした貴族気取りのヴァンパイアめ、この未来有望な若きヴァンパイア・ハンター、クリストファー・ヴァン・ストーカー様になんてことをしてくれやがる!  もう一度リベンジだ!今度こそ、その息の根を止めてやる!  杭が効かなかったのは予想外だったが、まだまだヴァンパイアの弱点というものはある。  今度はまた別の方法でいってやる。覚悟しとくがいい!  それにしても、昨夜落ちて打撲した身体が痛い。  一応、町の医者に手当てはしてもらったが、もう少し体力を回復してから、また、狩りに出かけることにしよう。
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