Ⅲ 手土産(プレゼント)

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 私が職人達に頼んだもう一つの仕事――それは、この城の防犯対策をより強固にするということである。  三階の、鉄格子の嵌められた窓から外を覗くと、向こうに見える城壁の天辺部分には矢のように先の尖った鉄柵が取り付けられ、容易に賊が乗り越えて城内に侵入できないようにしてある。  すべて、私が注文しておいた通りである。 「無理な頼みだったのに、一日でよくやってくれたものだ……」  そう、私は言って、職人達の仕事振りに感心する。  急な依頼であったのにこうしてすぐにやってくれたのは、昔からこの城の補修を任せている、互いによく知った古い馴染みだからであろう。  城内を見て回った後、私は一度寝室に戻って身支度をすませてから、石造りの回り階段を下りて、城正面の大門へと向かった。  そして、最後にその場所を確認する。  石組の門に据え付けられた巨大な木の扉の裏には、昨夜まであった物以上に太くて頑丈な(かんぬき)と、真新しい銀色の鎖に、これまた新しい金銅色をした錠がかけられている。  これも同じく職人達にやらせたものである。  後であの男が残していったものを調べたところ、どうやらこの門を開けようとはせず、鍵爪の付いたロープを使い、城壁をよじ登って中へ侵入したらしいのだが、それでも用心に越したことはない。  また、頭上を見上げると、そうした手段への対策として、門の上にも先端の尖った鉄製の泥棒避けが、私の指示通りに新たに取り付けられていた。  私が急にこの城の防犯対策を強化しようと思い立った理由――それは勿論、昨夜のあのヴァンパイア・ハンター侵入の一件があったからである。  いくら死なないからと言っても、そうそう、あのように胸に杭を打ち込まれていては堪ったものではない。  服は駄目になるし、前にも言ったが、肉体を傷付けられれば、多少なりと痛みは感じるのだ。  だからこうして、私が昼間ぐっすり眠っていても寝込みを襲われることがないよう、門扉や塀をより堅固に改修したと、まあ、そういうわけである。  加えて、これまでは大した事件もない田舎のことと、おざなりにしていた戸閉りも意識してしっかりとするようにした。一応、昼だけでなく、夜、寝る時も、これからは寝室には鍵をかけるようにしよう。 
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