Ⅲ 手土産(プレゼント)

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「昨日はよくもやってくれたなあ! 危うく死ぬとこだったぞ」  そう語る男をよく見ると、茶のロングマントにトラベラーズハットといういでたちは同じであるが、頭や腕には白い包帯を巻いたりなどしている。おそらくは昨日、三階から落ちた時に負った怪我であろう。 「おまえは、なんたらストーカー……」 「クリストファー・ヴァン・ストーカーだっ! その言い方だと、まるで俺がしつこく付きまとう変態野郎みたいじゃねえか!」  私が空憶えの名を呟くと、男はそう文句を言って怒ったが、〝しつこく付きまとう〟という点については別に間違いではないように思う。 「とにかく! 昨夜は貴様の悪運の強さに命拾いしたようだが、今度はそうはいかんぞ! 今日は杭よりももっと有効かつ的確な手段を用意して来たからな。今宵こそ、呪われし貴様の命も尽きる時だ!」  そんな決め台詞とともに、彼は前に出した右手の人差指をビシッと私に突き付ける。  人に指を差すとはこれまた失礼極まりないのだが、もう一々ツッコミを入れるのも面倒なので放っておく。  すると、彼は思い出したかのように…… 「ああ、そうだ! 貴様がいらぬことを言うので忘れるところだったが、どうだ!? 俺の焚いたこの香の香りは?」  と、尋ねてきた。 「ん? ……この香は君が焚いたのかね?」 「おうよ、その通りだ。この清浄な空気、貴様ら魔物にはさぞかし苦しかろう」  ……あ~あ、納得。そうか。そういうことだったのね。  私は、彼の言葉にようやく理解した。  〝(こう)〟というものは、古来より悪霊を払い、その場を清浄にする力があるとされており、確か、ギリシャのヴァンパイア〝ヴリコラカス〟の疑いのある遺体を始末する際にも大量の香を使うという話を聞いことがある。  おそらく、このストーカーというヴァンパイア・ハンターも、私の力を弱めようと思って、城の周りで香を焚いておいたのだろう。  ……でも、私は別に悪霊でもないし、悪の存在でもないので、香の匂いをたち込めさせられたからって別にどうということはない。というか、むしろ良い香りに感じるし、非常に心が休まる。逆に気分が爽快になって、元気が出てくるようだ。 「どうだ! 苦しいか!?」  にもかかわらず、彼は勝ち誇ったような顔で再度、尋ねてくる。
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