クリストファー・ヴァン・ストーカーの日記 一日目

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 さて、そうした土地の説明はともかくとして、本題の俺の仕事についてであるが、この田舎町に入る前に近くの農村を通った時には、家々の戸口に馬の蹄鉄やらニンニクや唐辛子を束にした魔除けやらが掛かっているのを目撃した。  これらの魔除けは、言わずと知れたヴァンパイアを遠ざけると古くより伝えられる代物である。  こうした魔除けがあるところを見ると、あのジプシーの一団から聞いた情報もそれなりのものではあるらしい。  あのショボくれたオヤジが言っていた通り、この村の近くの山に立つ城に、貴族になりすましたヴァンパイアが住んでいるという話もあながち間違いではなさそうだ。  もとより東欧はヴァンパイアの住む中心地であるが、それに加えて、ルーマニアでもこのワラキア地方は、15世紀に何万という敵兵を野原に串刺しにして立て、〝串刺し公〟としてその残虐性を恐れられたワラキア公ヴラド・ドラキュラなんていう、血を好む、吸血鬼も真っ青な歴史上の人物を排出した土地でもある。  こいつは俺の本格的なヴァンパイア・ハンターの初仕事として、かなり期待が持てそうだ。  とにかく、先ずは敵を知らなければ話にならない。とりあえず、今、町の宿屋に入って腰を落ち着かせたところなので、少し休んだら、さつそく地元民から情報収集することとしよう。  夜になったら、どっかそこらの酒場にでも行って話を聞くのもいいかもしれない。何分、人というのは酒が入ると口が軽くなるものだからな。
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