Ⅰ 吸血鬼(ヴァンパイア)

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 言ってみれば、すべての人間が必要にかられて狩りをしなくとも食料が手に入るのと同じである。何も苦労して狩りなどせずとも、楽に手に入る方法が他にあるのならば、その方がいいに決まっている。  本題に戻るが、だから、夜、街に行くというのは、散歩というかまあ、遊びに行くだけのことなのだ。 「今夜こそ、いい加減、諦めてくれただろうな……」  だが、私には一つ不安要素がある。  私は大きな姿見の鏡の前で、スカーフを締め直しながら渋い表情を作る……あ、言っておくが、ヴァンパイアが鏡に映らないなどというのは迷信だ。 どうやら魂のない者は鏡に映らないという話から、一度死に、そして不死の存在として蘇った、いわば〝歩く死体〟であるヴァンパイアも鏡に映らないという話になったようだが、こうして私は紛れもなく生きているし、魂もあるのでちゃんと映るのだ。  まあ、確かに死んでいると言われれば、私も人間としては(・・・・・・)一度死んでいる身ではあるのだが……私とて、何も生まれた時からヴァンパイアだったわけではない。  遥か昔のことだが、今では同族の者に噛まれたことで、当時、人間だった私もヴァンパイアになったのである。  少々小難しい話になるが、それについても一応、説明しておこう。  ヴァンパイアに噛まれ、生血を吸われると、大量の血を一気に失って死に至ることもあるが、それでも命を取りとめたり、何度かに分けて徐々に血を吸われたような場合、その者は一旦、仮死状態となり、その間に肉体が変化して、次に目覚めた時にはまったく人間とは違う存在となっているのだ。  最近の病理学などの研究成果を参考にすれば、おそらくはヴァンパイアが体内に持っている細菌(ヴァクテリア)なるものの影響ではないかと思われる。  噛まれることで、唾液に含まれるその特殊な細菌(ヴァクテリア)に人間は感染し、そのような現象が引き起こされるのではないかというのが、科学的思考を持った先鋭的な我ら同族の主流意見である。  とはいえ、そうして仮死状態となった者は心臓も止まり、息もせず、傍目には完全に死んでいるようにしか見えないし、人間としては二度と目覚めることはないので、他の者達から〝一度死んだ〟と思われてもそれは仕方のないことであろう……が、私を見ればわかる通り、こうしてヴァンパイアとして生きているので、やっぱり魂のない死体というわけではないのである。  さて、またも話が脱線してしまったが、話を戻そう。  私が抱いている不安――それは、ここのところ私を悩ませている懸念…というよりも迷惑千万な話である。
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