Ⅰ 吸血鬼(ヴァンパイア)

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「これを見ろ、ノスフェル! 今までは貴様の特異な体質のためにまるで効果がなかったが、今度はそうもいくまい! どうだ、このニンニクと唐辛子がさぞや恐ろしかろう!」  門前に仁王立ちする男はそう言うと、全身に巻きつけたニンニクやら唐辛子やらの香辛料の類を自信ありげに私の方へと見せ付ける。 「いや、だからそれは特異体質でもなんでもなく、みんなそうなんだって……」  そう、私は答えるが、 「ハハハハハハ! 今度こそぐうの音も出まい!」  男はまるで人の話を聞いちゃあいない。  男の言によると、彼の名はクリストファー・ヴァン・ストーカーというらしい。  そして、自称ヴァンパイア・ハンターなのだそうな。  ……それにしても、なんて格好なのだ。  私は改めてその珍奇な格好をまじまじと見つめる。  いつも着ている、そのちょっとむさ苦しげな茶のロングマントとトラベラーズハットはまあいいとして、その上にニンニクや唐辛子を花輪状に束ねたものを幾重にも巻きつけ、さらには綺麗な白いニンニクの花なんかも所々咲いたりなんかしている。  確かにニンニクと唐辛子はヴァンパイアを含む魔物に効果ある魔除けとして信じられているが、だからって、こんな大量に身体に巻きつけてくることはないだろう……これでは、ヴァンパイア・ハンターというより、まるで野菜でできた案山子(かかし)のお化けである。ケルト人の新年の祭であるハロウィンの衣装を着るにもまだ早い。  だいたい、その大量のニンニクと唐辛子は一体どうしたのだろうか?八百屋か?それともどこか農民の所へ行ってもらってきたのか?いや、あのなんか見憶えのあるような一まとめにされた形状……もしかしたら、そこらの家に行って無断で拝借してきたものかもしれない……。 「ダハハハ! どうだ! 今度という今度は恐れいったろう?」  呆れて眺める私の視線も他所に、彼は自信満々に胸を大きく張ってバカ笑いをしている。  この男が私の前に現れるのはこれでもう四夜目になる。  こんな迷惑なヤツに四日間もつきまとわれては、もう、ほとほと嫌になってくるというものだ……。  そうなのだ。私がそんな自称ヴァンパイア・ハンターに付きまとわれる厄介な日々は、今日より数えること三日前に、なんの前触れもなく、突然、始まったのである……。
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