クリストファー・ヴァン・ストーカーの日記 二日目

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クリストファー・ヴァン・ストーカーの日記 二日目

 5月4日 曇り  昨夜、宿屋の近くにあった〝デアルグ・デュ〟とかいう変わった名前の酒場に出かけ、そこで店の者や常連客達から、例のヴァンパイアと思しきアレクサンドル・D・ノスフェル伯爵のことについて、いろいろと話を聞いてきた。  この店は、こじんまりとした小さな田舎町の店ではあるが、料理と酒はすこぶる旨い。  だが、俺はこの店でひどい目にあった。  というのも、店にいた客達に「ノスフェル卿について何か変わったところはないか?」と鎌をかけてみたところ、皆、「俺達の伯爵にケチつけると許さねえぞ!」と、いきなり怒り出したのである。  客達ばかりではない、店の主やその娘までもがだ。  確かにノスフェル伯爵はこの辺では大地主であり、貴族として街の名士でもあるのだろう。  しかし、なぜ、それほどまでにここの者達はノスフェル卿のことを庇うのだ? それほどまでに、なぜ彼は人気があるのだろうか?  もしかしたら、ヴァンパイアの特殊な妖術で彼らの心を操作しているとか?  そのようにして住民達……特に、この店の客達にはえらく評判の良いノスフェル卿だが、今日の昼間、街でうまい具合に聞けた話によると、やはりこの男がヴァンパイアである可能性は非常に高い。  例えば、住民達の話によると、昼間にノスフェル卿を見たという者が極めて少ないのだ。  いや、見たとしても、山の上に立つ薄暗い彼の城の中でだとかで、昼日中、太陽の下でしっかりと彼の顔を拝んだという者は皆無に等しい。  伯爵のもとに古くから出入りしている大工の一人は、城の補修なんかを頼まれる時、大概、朝一度、伯爵に会って仕事の内容を打ち合わせした後は、仕事が日中に終わってもそのまま帰っていいと言われ、日が暮れる頃まではけして伯爵が確認しに出てくることはないのだという。  そして、多くの者がノスフェル卿に会うのは、日が沈んでから日が昇るまでの間―つまり、夜においてだけなのだ。 〝デアルグ・デュ〟に出入りしている者達も夜にしか伯爵に会ったことはないらしい。  言うまでもなく、ヴァンパイアは太陽の光を嫌う。  ここの住民達は皆、なぜか、そのことをまるで不思議と思っていないようだが、伯爵の行動は明らかに彼がヴァンパイアである可能性を示唆している。
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