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指定されたそのスタジオを訪れるのはこの日で3度目だった。 気が重く感じるのは空を覆う灰色の雲のせいだけでは無い。 「よ。久しぶり。」 一足先に到着し荷物を広げていた私の背後から、聞き慣れた声がする。 横目にちらりと振り返り目の端でその姿を確認した。 大きな荷物を投げ出すように床に置くと、首を横にして苦い顔をしている。 レイがオファーしたカメラマン、 岸本コウタ。 顔を合わせたくない数少ない人間の内の一人に今日ここで会わなくてはならないことが、 その日の天気以上に私の気分を重たくさせていた。 「低予算なので助手無しですよ、重てえ。」 「ご無沙汰。ご苦労様です。」 私は振り返りもせず無愛想に返事した。 「おいおい。久しぶりに会ったのに冷たいじゃないの。」 不満そうに言いながら荷物を跨いで私の前に回りこんでくる。 私はわざとらしく満面の笑みで、 「久しぶりー!会いたかったよー!……こう言えば満足?」 と最後は真顔で棘々しくはき捨てた。 「なんだ、それ。」 コウタは鼻でフンと笑い背を向けると、口笛を吹きながら荷物を解き始めた。 「おう!」 コウタの声がドア方向に飛んだ。 振り返ると扉を開けてレイが入ってくる。 いつものように「普通の青年」の様相だ。 「あー!コウタさん!今日はよろしくお願いします!」 「まかせとけ!ガッツリいい()撮るぜ!」 「カズさんも~!よろしくお願いします。」 レイはコウタの肩越しに首を傾けてウインクしながらそう言った。 「はーい!頑張りまーす!」 片手を上げておどけた返事をする。 「なーんだよ!俺に対する態度と違いすぎる!」 コウタが眉をひそめながら口を尖らせる。 レイは不思議そうに眼を(しばたた)かせて私とコウタを交互に見た。 「ばーか。」 コウタの拗ねた仕草がほんの少し可愛らしく感じて思わず笑ってしまったが、 レイは相変わらず不思議そうな顔をしたままだ。
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