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ほどなくしてヘアメイク担当の美容師が到着すると、
レイはメイクにかかり、スタジオ内は一気に仕事モードに切り変わった。
スタジオマンが照明の調整を始め、
大音量でBGMが流れ出す。
一着目の衣装を身に着けながらレイが言った。
「この間の話なんですけど…あれ、コウタさんにはホントのこと話できてないんです。」
「あ…そうなんだ。」
「個人的にお世話になった人たちに贈る、小さな写真集を作るって話してるんですけど…
やっぱり本当のことを話しておいたほうがいいんですかね?」
写真集なら私も欲しい、
と思いながらどんな写真なら皆が喜ぶかと想像してみた。
そしてすぐにその思いをかき消す。
そう、想像しても無駄だ。
事実は
「たった一人」に喜ばれるための写真を撮るのだ。
「そうか…あー…もう何着か持ってくれば良かったな…」
話しをはぐらかすように独り言をつぶやく私に、
レイが念を押すように言う。
「だから…カズさんしか本当のこと知らないから…」
「………?」
「どんなふうに撮られたらいいのか…」
はっと我に返り気が付いた。
今日のレイが表現したいのは、「想い」であることを。
いつもはその体に纏うものを魅せるためにカメラに納まっている。
もうかれこれ6年もの間それを仕事とし、
今では第一線のファッションモデルとなったレイでも
その心の内を撮られようことなどこれまでなかったのではないか。
レイが今日、撮られたいと思っているのは視覚的に見えるものじゃなく、
内側であること。
そして、
そのことを知っているのは私だけだなのだ。
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