2/3
前へ
/138ページ
次へ
ほどなくしてヘアメイク担当の美容師が到着すると、 レイはメイクにかかり、スタジオ内は一気に仕事モードに切り変わった。 スタジオマンが照明の調整を始め、 大音量でBGMが流れ出す。 一着目の衣装を身に着けながらレイが言った。 「この間の話なんですけど…あれ、コウタさんにはホントのこと話できてないんです。」 「あ…そうなんだ。」 「個人的にお世話になった人たちに贈る、小さな写真集を作るって話してるんですけど…  やっぱり本当のことを話しておいたほうがいいんですかね?」 写真集なら私も欲しい、 と思いながらどんな写真なら皆が喜ぶかと想像してみた。 そしてすぐにその思いをかき消す。 そう、想像しても無駄だ。 事実は 「たった一人」に喜ばれるための写真を撮るのだ。 「そうか…あー…もう何着か持ってくれば良かったな…」 話しをはぐらかすように独り言をつぶやく私に、 レイが念を押すように言う。 「だから…カズさんしか本当のこと知らないから…」 「………?」 「どんなふうに撮られたらいいのか…」 はっと我に返り気が付いた。 今日のレイが表現したいのは、「想い」であることを。 いつもはその体に纏うものを魅せるためにカメラに納まっている。 もうかれこれ6年もの間それを仕事とし、 今では第一線のファッションモデルとなったレイでも その心の内を撮られようことなどこれまでなかったのではないか。 レイが今日、撮られたいと思っているのは視覚的に見えるものじゃなく、 内側であること。 そして、 そのことを知っているのは私だけだなのだ。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加