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どうしてここだったんだろう。 最先端の現場で都会的でクールな画を撮ってきたコウタからは 想像もつかない場所だ。 都心の、アクセスの良い近代的なギャラリーを選ばず、 ここに決めたのには何かわけがあるはずだ。 駅からタクシーに乗り行き先を告げる。 走り出したその車窓から流れる町の風景をぼんやり眺めながら思い出す。 先週、ミキから初めて聞かされたこれまでのコウタへの想いと、 そして別れ際に打ち明けられたもう一つの真実。 あの頃の記憶を手繰り寄せる。 確かに愛していた。 どんなにつらい現実を目の当たりにしてもコウタから離れられなかった。 距離を置こう、 と言って別れを切り出された時、 本気でこの世から消えて無くなりたいと思った。 悔しくて、 でも寂しくて。 一緒に過ごした時間のすべてを忘れられなくて。 「あれはコウタなりのアンタに対する愛情だと思うよ。あの時は私もバカなことして、って思ってたけど。  カズを自由にしてやりたかったんじゃないかな。自由になったカズをずっと遠くから見てた。」 私がコウタとのことだけに月日を過ごすようになり、 独立への夢を蔑ろにしていたことを自分のせいだと感じて身を引いたということ。 そして、その後の私を今日まで見守ってくれていたということ。 「コウタ、待ってると思うよ。不器用だからさ、うまく伝えられないだけで。アンタのこと必要としてる。」 ミキはそう諭すように真面目な顔でそう言ったかと思えば、 「私にはわかる。コウタのことずっと見てきたから。」 今度は笑って、冗談を言うような口ぶりだ。 けれどそれは決して冗談なんかじゃなく、 ミキの本心だということはすぐにわかった。
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