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森の中、という表現が一番適当だろう。
そんな中にそのギャラリーはひっそり佇んでいた。
開催期間も終わりに近かったためか、
それとも都心から遠いこの場所では訪れる人ももともと多くはなかったのか、
私が館内に足を踏み入れた時には私以外誰もいなかった。
フローリングの床に私の足音がするだけで、
他に何の音もない。
The way so far, the way from here.
タイトルのパネルが目に留まり、周囲を見回すが、
まるで示し合わせて隠れているかのようにスタッフの姿さえもない。
ゆっくりと展示室に入り、順路に沿って壁面に掛かるパネルをひとつずつ時間をかけてみた。
進むにつれ不思議な気持ちが湧き上がる。
商業写真、
その中でもファッショングラビアを中心に仕事をしているコウタ。
長年コウタの撮った写真に触れてきた私には違和感を感じさせるほど、
これまでとは明らかに感覚の違う画が並ぶ。
まるでアートだ。
こんな写真、これまで一度も見たことがない。
人物写真は一枚もない。
風景。
それもきっちりと切り取られた全体の見えない部分的な画と、
光。
そして
影。
ひとり言、だと言っていたコウタ。
写真家としてはどちらかというと気持ちの浮き沈みをあまり見せることのないコウタが、
写真で語るその大胆な、
そして
繊細な感情。
無防備にさらけ出されたそれは、
あまりにも痛々しくて、
他の誰にも見せたくないという気持ちにさせる。
何だろう。
私の知っているコウタの「なんとなく」の部分が
はっきりと輪郭をもって見せ付けられているのだ。
知った気になっていただけで、知らなかったいろいろなこと。
ここ1年あまりに起こった全てがその写真で裏づけられたような気がした。
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