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写真がない。
最初はそう感じて唖然とした。
だがよく見ると、フィルムサイズの小さな写真が帯のような台紙の上に間隔を空けて貼られ、
それが連続して壁を横に這っている。
デジタルではなくフィルムカメラで撮影されたその写真はモノクロで、
フィルムがそのままプリントされている。
壁に吸い付くように寄り、目を凝らしてみて初めて何が写っているかわかるほどの小ささだ。
2、3枚ほど見て、思わず後ずさりした。
定点で同じ位置から撮られたその写真の風景に見覚えがある。
さらにそこに写り込んでいる人物は間違いなく、
私だ。
それはコウタの部屋のベッドルーム。
カメラはおそらくドア横の壁際に置いてあるチェストの上あたりだ。
ドア側から部屋の中を臨む風景。
恐る恐る1枚ずつ目で追う。
1枚ずつ台紙に手書きで日付と時間が入っていて、
1日に数枚、数十枚の日もある。
時刻はどれも午前0時を過ぎてからシャッターが切られている。
それは0時を過ぎてすぐの時もあれば
3時、4時、窓の外が白んで明るくなり始めた時間のものもあった。
連写されたかのようなコマ送りのもの、
暗すぎてほとんど写ってないもの、
すべての写真が日付が替わってから朝までの間に撮られている。
日付けは、
あの頃、
コウタの傍で過ごしていた頃の日付だ。
よく見ると、カメラは固定されているというほど定まっている感じはない。
毎日少しずつアングルがずれている。
写っている私も、ピントが合っていないのか、わざとそうしているのか解らないが、
ぼんやりしていて誰と確認できるほどではない。
ベッドに投げ出された身体、
カメラの前を横切るシルエット、
ある時はベッド脇に腰掛けている背中を写しているものもあった。
全ての写真に人物が写っているわけではないが、
どの人物も同一、
この私。
そしてそこにコウタの姿が写っているものは
1枚も無い。
私に気付かれないように
チェストの前でカメラのシャッターを切るコウタを想像した。
カメラをチェストの上に置いたままで
レンズ側から手を伸ばしシャッターを押しているのだ。
1枚だけ、その様子が窺える写真があった。
シャッターに伸ばしたコウタの手、明らかにその影が写り込んでいる。
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