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ギャラリーの中庭に出ると、空気はまだ頬に冷たいが柔らかな日差しがほんのりと暖かかった。 「どうしてここでやろうと思ったの?」 「うん…ここ、亮太が…好きな場所だったから。」 中庭から入り口とは反対側に出ると小高い丘になっていた。 せり出した部分にある木造のデッキに上がると町並みを一望できる。 「あ…」 色こそまったく違っていたが、 あの夕焼け写真の風景がそこに見える。 後ろにいたコウタを振り返った。 「あそこに見える、白いビル…わかる?」 コウタの指差す方を探す。 周りの建物の中でも一際大きなビルだ。 「病院。最後、あそこで。亮太が逝ってすぐここに来た。その時の空があの写真。」 やっぱり、そうだった。 「俺には見えたんだよね。亮太があそこを上っていく姿が。」 呑気な青色をした空を仰いで、思い出そうとしているのか、 眩しそうに目を細めている。 「あの写真にも…見えたよ、ちゃんと。笑ってたな、嬉しそうに。」 「そう。」 コウタは瞼をぎゅっと瞑り、再び空に向かって顔を上げた。 「そういえば…猫。飼ってるの?」 「ああ…うん。オフィスの近くに動物病院があってさ…そこで里親募集って貼紙みて。  衝動的にもらってきたのはいいんだけど…勝手ばかりしてまったく言うこと聞きやしねえ。  そのくせヘンなタイミングでみゃーみゃー纏わり着いてきやがるし。」 乱暴な言葉とは裏腹にまんざらでもない様子で笑う。 私も自然とその笑顔につられて笑った。 「猫って、何考えてるかわかんないよね。」 「ああ。まるで、おまえみたいだ。」 そう言って私をちらりと見てまた笑う。 その笑顔が私の気持ちに素直に響く。 その言葉が歯痒いほど不器用で、 私の心に響く。 愛しい。 泣きたくなるほどコウタが愛しい。 今日ほど、 この瞬間ほど、 コウタを愛しく感じたことはなかった。 過去の、私を苦しめたコウタも、 現在の、痛みの中で明日を見ようと必死で生きているコウタも どちらもコウタだ。 どちらも愛しい。 そして、 これからの私の生きる道に 無くてはならない大事な存在であることを確信した。
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