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「ボスと?レイが…?」 「知らなかったの?あんた、ボスにあんなに可愛がられてたくせに?」 すうっと血の気が引いていくのを感じた。 会社を辞めフリーになってひと月がたった頃、 誘い出されたカフェの席で元同僚のミキが驚いた顔で私を見ている。 学生時代からの友人、飯尾ミキとは 卒業後の就職先も同じだったことでずっと長い付き合いが続いていた。 エージェントを移籍したのちのレイの情報は 日本を拠点に活動している頃と比べまだ多くない。 今どんな仕事してるんだろうか、と会話に出してしまった私の言葉に ミキはここぞとばかり喰いついてきた。 「レイって…1年くらい前からかな、ボスのコレ。」 ミキは私の鼻先に親指を立てて突き出した。 「まあねえ。ボスも若い頃まあまあの売れっ子モデルだったし、  あの年でもキレイで色気もあるし…  でもいくらダンナとほぼ別居状態だからってとっかえひっかえお盛ん過ぎだよね。  しかも相手はまだハタチそこそこのお子ちゃまじゃん?  そうだ、レイが元いたサーティスの社長っていうのも確かボスの元カレよ。  今のあっちの事務所もその辺関連のコネらしいし。  そう考えると、ある意味、レイのほうもボスを利用してるのかもね。」 矢継ぎ早に繰り出されるミキの言葉をただただ呆然と聞いた。 元上司、チーフスタイリスト・佐々木サヤカの顔と、 レイの顔がチカチカと交互に浮かび上がる。 部外者であるレイが 同僚たちの誰よりよりも早く私のフリーランス転身を知っていたのも、 そう、辻褄が合う。 ボスは私より5つ年上でモデル出身のスタイリストだ。 10年程前にモデル時代に知り合ったカメラマンと結婚したが子供もなく、3年ほど前から別居していると聞いていた。 思い起こせばボスには別居前後からいつも誰かしら男性の影はあった。 傍で仕事をすることが多かった私でさえ個人的な話を本人から聞かされることなどほとんど無く、 ましてやその短い期間で替わっているだろうその相手をその都度誰だか確認したわけでもない。 どこでだれが聞いたか、見たかはわからないが社内で噂になっていたのは知っている。 でもそれは単なる噂でなく私には確信があった。 ボスは付き合う男性が変わるたびに身に着けるものやヘアスタイル、メイクの雰囲気が変わる。 それはまるでファッション雑誌の撮影でシチュエーションに合わせて衣装を変えるモデルのようだった。 レイと、ボス。 ミキが言うように、 不倫で、しかも18も年の離れた女性との関係が 「純粋な恋愛」 だと捉えるほうが難しいのかも知れない。 でもあの日、 これからの未来を想像しキラキラと輝いていたレイが、 ボスを利用してるなんてこれっぽちも思えなかった。 「でも…案外お似合いな気もするな…」 無意識に口にした私の言葉にミキは呆れ顔だ。 そう、 チカチカと交互に現れる二人の顔が 一瞬並んで見えたとき、 思わずそう思ってしまった。
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