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「それで?写真集って言ってたよね?」
しばし冗談交じりに近況を報告し合ったあと、カップに2杯目のコーヒーを注ぎながら尋ねた。
「あ…うん…写真集っていうほどじゃないんだけど…」
少年のような笑顔で笑っていた顔が
ふっと穏やかな大人の横顔に変わった。
その横顔になぜか切なさを感じて、
何か酸っぱいものを口に含んだ時のような感覚に襲われる。
「お世話になってる人たちに挨拶みたいな感じで贈りたいんです。」
「挨拶?」
よくわからず不思議そうな顔をした私に、
レイは戸惑うそぶりを見せ考え込んだ。
「えっと…僕の写真を…お世話になった人にプレゼントしたいんです。
権利のことなんかもあって勝手できないんで事務所には内緒なんですけど。
プライベートで大切にしてる人への贈り物にしたいんです。」
少し照れた顔でレイは言う。
なぜだろう。
わかり辛くたどたどしい日本語の説明なのに、
それだけですぐにピンときた。
お世話になった人。
プレゼント。
そして恥ずかしそうにうつむきながら笑っているレイ。
ボス、佐々木サヤカ。
彼女の顔が私の脳裏に迷いも無く現れた。
詳細を聞いていくうちにその撮影が完全に個人的なオファーだとわかった。
すでに都内のスタジオを押さえてあり、美容師とカメラマンも知り合いを頼んだという。
個人的なオファーということもあってスタッフも最小限の人数だ。
レイが帰ってしばらくすると自分でも驚くほど気持ちが落ち着いた。
この2年余り、レイを想い浮ついていた自分をちょっと笑った。
ネットでレイの情報を探したり、知り合いの関係者にそれとなく話を聞いたり。
まるで中学生の片思いだ。
もう少しで37歳にもなろうとしている私が。
しかも相手は13歳も年下で業界では名の知れた「モデル」。
仕事柄、多くのモデルとの関わりがあったが、
この時の私には、レイだけが長い期間にわたって仕事を共にしたことのある唯一の「有名モデル」だった。
無名のころを知っているというだけの理由で、レイを他のモデル達とは違う親しみの目で見ていたのかもしれない。
勘違いしてすこし舞い上がってしまっていただけ。
そう、「好き」じゃなく
「ファン」になっていたんだ、と。
そしてそのアイドルには、
日本を離れてもなお想い合っている恋人がいる。
それが自分のよく知る人物だという偶然は無くてもよかったことなのに。
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