0人が本棚に入れています
本棚に追加
冷蔵庫を開けると、中に若い女が座っていた。
冷蔵庫は扉が二枚あるやつで、上が冷凍庫で下が冷蔵庫。
女は、ご丁寧に冷蔵庫の中身を取り出して、棚網も取り出して、代わりに自分がその中に納まって、行儀よく正座して中から扉を閉めて僕を待ち伏せしていた。
女は、花柄のワンピース一枚で、扉を開けた僕が悲鳴を上げるのを冷蔵庫の中から見上げて、紫に変色した唇を釣り上げてにっこりと笑った。
「驚いた?」
そう訊ねる女に僕は言葉なく頷いた。
「あんたを驚かすために、ずっと入っていたんだ。ああ寒い」
「なんで、こんな馬鹿なことするの?」
と、僕が訊ねても女名はへらへら笑いながら「あんた驚いたね。ああ可笑しい」と言っている。
僕は腹が立ったので、冷蔵庫の中にあったはずの牛乳はどこだと訊ねた。
「飲んじゃった」
「全部?」
「そう。おかげでお腹がぎゅるぎゅるいってる」
僕は呆れてもう一つ訊ねた。
「卵とチーズがあったはずだけど」
「チーズは食べた。卵はちょっと古かったから窓から捨てた」
女はそう言って、にっと歯を剥いて笑った。
その顔が薄気味悪くて、その時になって僕ははじめて、この女は誰だと思った。
「あんた誰だ?」
おそるおそる訊ねると、女は嬉しそうににっこりして
「それそれ」
と言って、僕を指さした。
「あんたを驚かしたくて、いろいろ仕掛けたんだ。もっと驚かせてあげようか」
僕が黙っていると、女は急に不機嫌な顔になって、顎をしゃくり上げて頭の上を指して言った。
「上も見てみなよ」
僕は、こんな女の言うことに従うのは癪に障ると思たけど、なんとなく気になって冷凍庫の扉を開けた。
中には凍り付いた赤ん坊が横たわっていた。
おわり
最初のコメントを投稿しよう!