確認は忘れずに

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確認は忘れずに

 大学入学後にグループを作った四人は、初冬のある日、そのうちの一人、都が独り暮らしをしているキャンパス近くのマンションに集まった。 「はぁ~、こたつなんて久しぶりだ~」 「実は私、実家にもないから、初体験なのよね」 「本当!? さすがに私は、祖父の家で使ったことあるけど」  正方形の三辺に収まって満足そうに感想を述べ合っている優里、薫、花蓮に、その部屋の主である都が呆れ気味に言葉を返す。 「あのさ……。三人とも、どうしてこたつ一つでそんなに大盛り上がりなのよ?」 「だって、『部屋の座卓、寒くなってきたからこたつにしてる』なんて、サラッと言うんだもの」 「うん。普通あり得ないよね? 独り暮らしの部屋なんだし、こたつを置いたら一気に狭くなっちゃうよ」 「都の部屋が広くて良かった。今日は遠慮なく泊めてね?」 「あのね、こたつをつけっぱなして寝たら、風邪をひくからね!? 一応電源は消すから、持参した毛布にちゃんとくるまってよ?」 「分かってるって!」 「今日はお世話になります!」 「もう寝ないで、オールナイトで飲みながらガールズトークしよう!」 「隣近所に迷惑だし、節度厳守!」  能天気すぎる友人達に頭痛を覚えながら、都はしっかり釘を刺した。そこで優里が、持参したバッグを引き寄せながら、満面の笑顔で言い出す。 「ところで私、今回四人でお泊まり、かつ正方形で対面という状況において、必須のアイテムを持参したのよ」 「え? 何よ、それ?」 「四人が必要って事?」 「まさか、麻雀じゃないでしょうね? 私、やり方なんて知らないわよ?」 「違うって。これよ!」  怪訝な顔になった友人達に、優里は手にした物を突き出して見せた。しかし他の三人の反応が、更に微妙なものになる。 「……トランプ?」 「うわぁ……、何かこたつと同じくらい、久しぶりのような気がする……」 「でもアナログ過ぎるけど、逆にこういうシチュエーションにピッタリね。納得だわ」 「そういうわけで、スイーツとスナック買い出し要員選定を賭けて、第一回ババ抜き大会開催を提案します!」  続けて優里が宣言した内容に、周囲が呆気に取られた。 「ババ抜き……。すごい渋い……」 「発想が、ある意味ぶっ飛んでる」 「確かに手始めにやるには、妥当かもしれないけどね」 「えぇ? 駄目?」  優里が残念そうな声を上げたが、それに周囲は不敵に笑いながら応じた。 「駄目なわけないでしょう?」 「私のポーカーフェイスっぷりを、とくと見せてあげるわ」 「最後になったら、当然購入費用はその人持ちよ?」 「俄然やる気出てきた! 絶対負けないから!」 「じゃあ早速配って!」 「了解。任せて!」  一気に盛り上がりを見せる中、優里は箱からトランプの束を取り出し、丁寧に切り始めた。そして各人に一枚ずつ配り始め、じゃんけんで引く順番を決めてババ抜きが始まる。 「ええと、……こっち! やった、上がり!」  気迫溢れるやり取りの末、都が一番先に手札を無くして上がった。 「くっ、一抜けされた。絶対ここから挽回するから!」 「三人とも、頑張れ~。私は特製ダブルシュークリームで良いからね~」 「絶対負けないから!」 「こっちの台詞よ!」 「あ、ちょっと! 横から見ないでよね!?」  もう余裕の笑みで、早速リクエストを口にする都に、残る三人の顔がこれまで以上にやる気に満ちる。それから少しして、次に上がったのは優里だった。 「ええと、迷う……。ようし、これ! やった、合った! 上がり!」 「嘘!?」 「悔しいぃぃ~!」 「二人とも、頑張って~! 私は釜焼き焦がしプリンね!」  先程の都に倣って優里もリクエストをしながら笑顔で手を振ると、残った薫と花蓮が一層闘志を露にした。 「絶対に勝つ!」 「それはこっちの台詞よ!」  しかし何気なく二人の手元を見ていた都は、ある事実に気がつく。 「……薫、花蓮。ちょっと待って。それ、おかしいから」 「はぁ!? 何がおかしいって言うのよ?」 「私達二人なら、幾らでも奢って良いっていうこと!?」  途端に険しい視線を向けた二人に、都は溜め息を吐いてから冷静に話を続けた。 「そうじゃないわよ。あなた達が持っているトランプ、三枚ずつじゃない?」 「そうだけど?」 「それがどうしたのよ?」 「だから二人が持っているトランプで、ペアが三組作れる筈よ? どちらにもジョーカーが無いんじゃない?」 「………………」  真顔で都が指摘した内容に、室内が不気味に静まり返った。そして数秒後、薫と花蓮が揃って優里に詰め寄る。 「ちょっと優里!?」 「その箱見せて!」  言われる前に箱を引き寄せて中を確認していた優里は、ゆっくりと箱の中に残っていたジョーカーを引き出しながら謝る。 「ええと……、ごめん。ジョーカーが入ってた……。全部取り出したつもりだったんだけど……」 「ちょっと! 今のはノーカウントよ! いいわね!?」 「仕切り直しよ! 今度はちゃんとジョーカーを入れてね!」 「分かってる。ちゃんと入れたから」  盛大に叱りつけられた優里は、申し訳なさそうに再びトランプの山を混ぜてから切り始め、都は苦笑しながら再度の勝利を目指しながら、配られたトランプに手を伸ばした。
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