1話 道端系美人と治癒野郎

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暇を持て余した少年は家の周りの地図を作ろうと唐突に思い立った。 すっくと立ち上がりアニメのように拳を何もない空に掲げる。 ちょっと虚しい。 親からは「家を出るなら19時迄には帰ってこい」と言われていたがそんなに遠出する気はない。報告の必要もないだろう。 ふとぴりっとした痛みが走り、自分の足首を見る。 昔いつの間にか出来ていた切り傷が痛々しく靴下から顔を覗かせている。絆創膏を貼ろうとしたのだが直ぐに剥がれてしまうのだ。 見ているとやけに苛立つので、林檎は乱暴に靴下を上に伸ばした。 外に出ると熱気が全身を包む。少し吐き気がした。空気が汚いな、というのが彼のこの町の第一印象だった。 田舎から都会に出てくるとこんな感じの印象がするが、まさかここまでとは。 林檎はウォークマンで好きなバンドのデビュー作を聴きながら、スケッチブックとペンを片手に一歩を踏み出した。 その頃町では軽く事件が起こっていて、外には出ない方がいいと言われていたのだが、 そんなものは知る由もない話だった。
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