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「…そのあだ名で呼ぶな!!」
!!
「待て、待てって!」
頭に血が登ったらしいリボンは、林檎の制止も無視して「治癒野郎」に飛びかかった。
見ているだけで折れそうな手足をしている割には案外基礎体力のようなものはあるらしく、凄いスピードで駆け出す。
男に拳を突き出した。男の方はそれをすっとかわす。
リボンの拳がその先にある民家の塀に当たり、塀がめきめきと音を立てて崩れていく。
…頼むからこれ以上町を壊さないでくれよ…
林檎の願いも虚しく、リボンの攻撃をモロに受けた塀は、ぽっかりと穴を開けて残った。
どうする気なんだこれ。
「そういえばさ、お前は木立じゃないんか?」
パンチを華麗に避けた治癒野郎は、今まで無視していた林檎の方を振り返った。
木立?と林檎が首を傾げると「ちゃうんか。クロメと一緒にいるからてっきりそうかと」と納得したようにふんふんと頷いた。
クロメ、というのはリボンの名前だろうか。と思ったが、相変わらずこいつらの言っている事はよく分からない。
一方の塀を破壊したリボンはゆっくりと拳を下ろし、睨み付けるように治癒野郎を見ている。眼光でこいつを殺してしまうんじゃないだろうか。
「こいつは関係ない。今会ったばかりだ」
リボンの目の色がじわじわと変わっていく。治癒野郎と同様、物理的にだ。赤と茶色の間のような色で、変化が止まる。
治癒野郎はげっ、と小さく呟き、両手をさっと挙げた。
「あんまし早とちりすんなや。この子を殺そうなんて思っとらんから」
「いや思ってたね。お前は知らないやつが知ってしまった時に殺す主義だろ?」
治癒野郎はちろりと舌を出して悪戯っ子のように笑った。
「ばれたか」
リボンが動いた。こいつキレると暴力に走るのか。
またさっきの、いやそれ以上のパンチを野郎に打つつもりだ。そうすれば治癒野郎は確実に死ぬ。
治癒ができるのなら話は別だが、そんなことする前に死んでしまうのではないかと思った。
つまり、即死。
生憎治癒野郎の後ろは壁。此処は裏路地なので上手く逃げられそうな所もなかった。
「ちっ」
治癒野郎はあっさりと死を覚悟したらしく、逃げるのが無駄だと察たのか両手を下げた。
林檎は呆然としてそれを見つめていた。
…まさか、死ぬつもりなのか?与えられた命を、そんなにあっさりと捨てるのか?
リボンが拳を振り上げた。
…ふと、足が熱いなぁ、と思った。
そこで林檎の意識は途切れる。
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