3人が本棚に入れています
本棚に追加
試合後、思いもしない出来事が起きた。
須藤さんは何故か海口や天道ではなく俺に声を掛けたのだ。
「君、名前は?」
「加賀美司です」
「サッカーは好きかい?」
「どうでしょうね」
俺は何を思ったのか素直に答えなかった。何も考えずに楽しく過ごした楽練のメンバーではなく、下馬評をひっくり返されて鬼監督にこっ酷く叱責を受けている八相のメンバーを見て答えてしまった。
須藤さんの口振りはどこか天道に似ていた。
「君は下手だ。だけどガッツがある」一度下げてから上げる。
そして続く言葉に俺は耳を疑った。「近いうち練習生としてうちのクラブに参加してみないか?」
須藤さんが言っているのはかつて彼が所属した古巣クラブのユースチームの入団テストの事だった。
とんでもない打診を受けている事はわかっていたが、俺の心のどこかに宿っていた、天道へのプライドが顔を出した。
「プロとか、興味ないんで」
須藤さんは「そうかー」と一言呟くと後はボールと遊んでいた天道と涙ぐむ海口をずっと交互に観ていた。
後になってゴリ松先生が話し掛けて来た。少し興奮していた。
「さっきスカウトの人に、あのサイドの選手は誰だ?って聞かれたぞ。お前だって教えたんだけど話掛けられたか? お前にはラグビーの素質があるんだな。先生嬉しいぞ、後でサインくれ」
声を掛けられて嬉しかったが複雑な気持ちにもなった。
後日、天道は何かを確信していたようで、俺に嬉しそうに「お前も選ばれたのか?」と言った。
久々に選ばれた天道は元代表に声を掛けられた俺も候補に挙がった、と勝手に思い込んでいたようだった。俺は埋もれた原石でも何でもなく特段上手い訳でもなかった。
「ガッツがあるって言われたけど、断ったよ」といつになくカッコつけて話すと天道は笑顔のまま「勿体なー」と言った。
最初のコメントを投稿しよう!