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卒業式間近の日曜。 天道は近くの河川敷で初めて俺と2人きりで話をした。俺がコンビニから買い物をして帰る途中にばったりと出会った。河川敷では小学生たちが珍しくサッカーをしていた。楽練が強豪校に奇跡の大逆転をした様子はちょっとしたニュースにもなった。子供は感化されやすい。 子供たちが笑い合いながらプレイする姿を見て、いつも高飛車な天道が少し不安気だった。 「加賀美、俺はサッカーをやめたい」と天道は唐突に話を切り出した。 「急にどうした?」尋ねると転校した理由を初めて語った。 「前の学校は楽しくなかった。皆サッカーを戦場として見て競争ばかりで、俺がうま過ぎるから誰もピッチで言う事を聞いてくれない」 高飛車発言はいつもの天道だったが友達作りで始めたサッカーがいつしか人を遠ざけるものとなっていた。 「お前らとサッカーが出来て楽しかった。ありがとう。ヘタクソな奴ばっかりだけど」 一言余計だったが天道は心の底から感謝していたように思えた。 「プロになる、それは厳しい競争を生き抜かないといけない。俺はただ、皆とサッカーがしたいだけなんだ」 何かを悟っているかのような言い回しだったが、あの時の俺は天道に名門クラブからオファーがあった事など知りもしなかった。 「競争ばかりの奴が嫌いか?」俺は少しとぼけるフリをして聞いた。 「好きじゃない」天道は短く答えた。 「サッカーは、好きか?」俺は確信を持って尋ねた。 「サッカーは好きだ。それは変わらない」天道は迷いなく言った。 俺は少し間を置いて天道へ言った。 「楽しいなら、続けられるんじゃないか?」 天道は少し考えたように遠くを見つめた後、言葉を返した。 「たまには良いこと言うんだな」 笑みを浮かべると天道は急に走り出して河川敷の子供達の中に混じった。純粋な気持ちで遊べる最後の瞬間を噛み締めるようだった。
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