とある休日風景より

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 流石に寝室は二人きり。暖炉に火を小さく残したまま大きめのベッドに潜り込むと、直に温まってくる。それでなくてもファウストは体温が高いから、こういう寒い夜は助かる。 「疲れたか?」 「そういうわけではないよ。温かくて心地いいなと思って」  逞しい腕の中でもぞもぞしながら、ランバートは胸元に顔を埋める。少し甘く感じる彼の匂いが、気持ちを落ち着けてくれる。 「ファウストに匂い」 「お前好きだな」 「いいだろ、このくらい。幸せ噛みしめてるんだよ」  ローブの合わせ目から素肌に触れる。しっかりと張った筋肉の感触を確かめていると、不意に太ももの辺りにグリッと硬いものを押しつけられた。 「俺としては、少々困った事になるんだが?」  見下ろす黒い瞳に、僅かな光りが宿っている。まだ飢えているわけではない。だが、欲しそうな目でもある。  そんな様子を見ると嬉しいとは、流石に恥ずかしくて言えない。もう何年も一緒にいるし、求め合う夜なんて数えるのが馬鹿らしいほど過ごしてきた。それでもこの人が欲情するのは自分なのだ。そういう自惚れみたいなものが、ちょっと恥ずかしかった。 「ランバート」 「っ」 「欲しい」  甘く耳に直接吹きかけるような言葉に、ぞくりと頭の中が痺れる。悪戯するように硬く大きな手が顔にかかった髪に触れて、それと一緒に肌にも触れる。ほんの僅か、体温を感じるくらいに僅かな指の気配が、余計にランバートを敏感にする。 「ダメか?」 「ダメじゃない、けど……お手柔らかにしてくれないと明日動けない」 「心得ている」  見上げたファウストの嬉しそうな顔は、男の色香をこれでもかとダダ漏らしにしている。それに当てられるランバートは、年々彼に弱くなっていくことを自覚せざるを得なかった。  仰向けにされ、唇が首筋に触れていく。これを合図にするように、体は感度を上げていく。ついばむような鎖骨へのキス。触れるか触れないかの指先が体をなぞっていく。確かな感触などないのに、体温が滑るのを肌が追って息が乱れてしまう。もどかしくて、切なくてたまらない。 「ファウスト、触って」 「どこにだ?」 「意地悪するなよ。それ、もどかしくてたまらないんだ」  太ももの内側を柔らかく撫でられて、ヒクリと足が持ち上がる。するとその根元に確かな手の感触があり、ヒクヒクと震えて余計に足を開いた。 「弱いな、ここ」 「んぅ」  知り尽くしているだろうに、言葉にされて羞恥心が増す。そのまま片足の根元を手でしっかりと固定したファウストは、敏感な薄い肌を舌と唇で愛撫し始めた。  声がどうしようもなく甘く漏れてしまう。弱い部分を優しく、でも執拗に刺激されて背がビクッと跳ねる。まだ触られてもいない昂ぶりから透明な汁が溢れて腹を汚して糸を引く。その全てを見られているのだと思うと、羞恥心で隠れたくなる。 「後ろまでヒクついてきたぞ」 「もっ、意地悪するなよ! んぁ!」  もうとっくに後ろは物欲しげに誘っている。肌の中も同じくだ。ランバートの体はとっくに受け入れモードなのに、今日はなかなかきてくれない。焦らされて切なくて、ランバートは涙目だ。 「焦らすなよっ! こら、ファウスト!」 「悪い、可愛くてついな」 「可愛くはない」 「そうか?」  意地悪に笑うファウストの指が、つぷっと一本潜り込む。それだけで体は反応して、唇から喘ぎが漏れた。  香油などは使わなくても、彼の指一本程度ならたやすく飲み込める。節のある指が入口を通り抜けると、ぞくぞくっと背に痺れが走った。 「今日は準備が早いな。もう欲しそうだ」 「だから、んぅ……欲しいって言ってるじゃないか」 「流石にまったく慣さずには無理だろ」 「ファウストが煽ったからじゃないか」  指を感じて奥が欲しい欲しいと切なげに締まる。臍の裏辺りがもう物欲しげにしているのだ。  それでもファウストは指を増やし、香油を垂らしてとじっくり。何度もクラクラと快楽に流されそうになるランバートは、くてっと力が抜けていく。 「ランバート?」 「もっ、おねが……切ないから、いれて……っ」  多少痛かろうが今更だ。懇願するように見つめると、ファウストは困ったように優しく笑う。そのくせ飢えてもいて、どうしたいのかと問いたくなる。  幾夜を共にしてきたと思う。どれだけ気持ちも体も重ねたと思う。欲しいと訴えているのは自分ばかりではない。それが隠せる程、この関係は浅くない。 「ファウスト」  両手を広げ、合図を送った。早く抱きしめろという要求を、この人は突っぱねたりしない。  抱きしめられる確かな安堵と、探る熱い濡れ杭がぴたりと合わさる感じ。ゆっくりと身を穿つ苦しさはどうしてもあるが、痛みとは違う。それに、こうして一つになれる喜びもまた、この苦しさには含まれている。  ファウストも少し辛そうに眉根を寄せた。食い締めるように力が入るから仕方が無い。緩めるように努力はるすが、なんせ挿入だけで軽く飛ぶのだ。思うようにはいかない。 「ごめ……辛い、よな?」  至近距離にある顔に手を伸ばす。触れた頬、その手を包むようにファウストも手を重ねる。そして手首の内側に、触れるだけのキスをした。 「焦らしすぎたな」 「だから言ったじゃないか」 「お前が気持ち良さそうなのを見るのが好きなんだ。ついつい、やり過ぎる」 「んぅ!」  軽く揺すられ、僅かに抜けては突き上げられる。その衝撃と気持ちよさで腰が溶けそうだ。振り落とされそうな気がしてしがみつくと、角度が変わって気持ちいいところに触れる。そのまま抉るように奥を穿たれるから、ランバートは頭の中が真っ白になりそうだ。 「もっ、イッ…………やぁ! あっ、はぁ!」  イク感覚が徐々に途切れなくなって、ずっと内壁が蠢いているように感じる。締め付ける、そこで感じているファウストは熱くて、徐々に質量を増していく。  感じてくれている。そう実感できるのは嬉しい。そして、自分も欲しい。  至近距離で見る、濡れた黒い瞳。どちらともなく近づいた唇が触れて、深く繋がっていく。両足を深く割られ、激しく最奥を探られて。せり上がるような快楽に負けて声にならない嬌声を上げたランバートの中で、ファウストの熱を確かに感じる。 「ランバート、愛している。おやすみ」  くすぐったく低く、そして甘い愛の言葉は蕩けた脳にギリギリ届いた。だがそれに返すほどの余裕は、ランバートには無かったのである。
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