7人が本棚に入れています
本棚に追加
エピソードゼロ。
僕の名前は美咲真。
2月14日生まれの17歳。
高校三年生だった。
だった、っていうのはこの受験生の高三の夏。本当だったら勉強で大変なこの時期に母親が亡くなったから。
腎臓がん。
本当だったら助かるだろうそんな癌だと僕が知ったのは去年の暮れ。
救急で運ばれた母が癌だと担当医が僕にだけ告知。
そのまま翌週手術になったけれど、開けてみたらもうリンパにも転移していたのだった。
拳よりも大きいその取り出した腎臓の組織。これほどまでに大きな腫瘍ができていたということは、お母さん相当辛かったでしょうね。
そう話す医者の言葉に、僕は自分に対する怒りしかなかった。
もっと早く病院に行っていれば助かった。
夜遅くまで働いて女で一つで僕を育ててくれた母さん。
ここのところ夜寝るときに不自然なまでに左を下にして寝てたから疑問に思って聞いてみた。
そしたら母さん、なんだかこっちの方が寝やすいのよって笑っていうもんだからそれ以上つっこんで聞かなかったのが本当に悔やまれる。
貯金型の生命保険がちょうど満期になり解約、次の保険どうするか考えていた矢先の病気。
亡くなるまでの半年で貯金は使い果たし、身内だけの葬式を終わらせたあと。
どうということは別にないのだ。
もう17。
自分で働いて暮らしていけばいい。
高校は行ってる暇はないからしょうがないけど。
もう、ほんとう、しょうがないけど。
別に勉強がしたかったわけでもないし。
遠縁の、それもほとんど会ったこともないおじさんを頼るのも気が引ける。
住まいくらいならと声をかけてくれたそのおじさんの親切を断り、僕は都会に出ることにした。
そう。
生まれた街は、生活するには良いけれど働く先を探すのは大変だ。
特に、こんな、身寄りもない17歳をあっさり働かせてくれるような場所って、そんなに無かった。
アルバイトだけでは流石に苦しい。
もうちょっと稼ぎの良いところ、そう思って。
まあ、結論から言うと、甘かった。
都会に出てはみたものの、こんな住所不定の子供にまともな職は無かったのだ。
夏だと言うのにジーンズにジージャン。そんな来たきり雀。
夜は漫喫で寝て夕方から仕事を探す。
もうなんでもよかった、っていうか、もう夜の仕事くらいしかまともに働けそうな場所が無かった。
ふらふらと夜の街を散策し、従業員募集の張り紙が無いか見て回る。
もちろんボーイとかそういうの。
流石に今更女の服を着て働くとかは選択肢に無かった。
だって、そんな事ができるくらいだったらそもそもこんな路頭に迷うような選択をしてこない。
大人しくおじさんに囲われていれば良かった、って、そんな話になっちゃうでしょう?
最初のコメントを投稿しよう!