エピソードゼロ。

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「ねえ大丈夫? 起き上がれる?」 そう声がして。 ぼくを抱き上げる人。 身体の自由が効かない僕は、なんとか声を出した。 「ごめんなさい、ちょっと動けないみたいで」 「救急車、呼ぼうか? 派出所そこにあるからおまわりさんがいい?」 ああ、嫌。病院も、おまわりさんも。 「ごめんなさい。大丈夫ですから。ちょっと休めばきっと……」 「バカ言っちゃだめ。女の子がこんな時間にこんな所で倒れてたら、もう何があってもおかしく無いの。うーん。どうしよ。歩ける? もし少しでも歩けるならあたしのお店すぐそこだから。もうカンバンなんだけど休ませてあげるから」 「ありがとうございます……」 僕は踏ん張って立ち上がり、その助けてくれた彼女の肩を借りなんとか歩いて。 少し歩いた先にあったのはスナック灯って名前の看板。閉店の札がでてる。 ガラガラっと扉を開けるとそこにはもう1人、美人な女性がカウンターに座ってた。 「あらみやこったらかわいい子拾ってきたのね」 「もう、ひめ。茶化してないで手伝って。この子の服びしょ濡れだから脱がせないと風邪ひいちゃう」 ああ、なんでだろう? ほんと、僕の服濡れてぐしゃぐしゃだ。 雨でも降ったのか? それに、あの化け猫はどうしたんだろう? 「よっこらしょ」 僕はソファーに寝かされて。そして服を脱がされた。  恥ずかしかったけどもう身体がいう事をきかない。 2人がかりでなんとかはいで、そしてタオルで身体拭いてもらって。 すっぽりかぶる感じのゆるいワンピースを着せて貰ったのだった。 「ああ、やっぱり女の子だった。そうだと思ったけどちょっと自信なかったんだよね。胸だってぎっちりサポーター巻いちゃってたし」 「そうねー。この子はFTM? かな?」 「うーん。その辺はわかんないよ。ただ単に自分の性別に嫌悪感持ってるだけの女の子って多いから」 「そうだよね。勘違いしてる子っているしね。そういう子ってたいがい性的なもの全般がダメだったりするけどね」 ソファーの上でゆったりとした服を着せられ、なんだかものすごい睡魔に襲われた僕は。 彼女たちのそんな会話を夢見心地に聞いて。 そのままいつのまにかまた寝てしまっていたのだった。
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