エピソードゼロ。

8/8

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「色々とお世話になりました」 朝起きて、というかもうすでに夕方になっていたけれどなんとかおきたとき。 そこは見知らぬ部屋、見知らぬ空間だった。 外は喧騒に包まれて、ここが繁華街のど真ん中だと主張している。 スナック灯のあるビルの二階。 みやこさんの部屋だった。 ベッドに寝かされちゃんとふかふかのお布団までかけてもらって。 もう、ほんとなんてお礼を言っていいのか分からなくて。 朝ごはんまで用意されていたので(と言ってもお昼ご飯ももう時間的には過ぎている)そんなご飯ではあったけれど、みやこさんと一緒に美味しくいただいて。 で、さすがにこれ以上はと思った僕は、みやこさんにお礼の挨拶をして帰ろうかと思ったのだった。 まあ服はこのまま借りていくしかないんだけど。 「ねえあなた、ちゃんと行く宛あるの?」 「まあとりあえず漫喫にでも行きますから」 「って、あなたみたいな女の子が漫画喫茶で寝泊まりしてたっていうの? もう、冗談じゃない。そんなの何かあったらどうするの!」 「でも……」 「でも、じゃないの!」 ちょっと怒ってるみやこさん。なんだか嬉しいけど。 「ねえあなた、もしよかったらここで働かない? なんだったらお部屋決まるまで住み込みでもいいわよ?」 「あ、いえ、でも、僕はホステスはちょっと……」 「って、水商売が嫌だっていうの?」 「いえ、そういうわけ、じゃ、なくて」 「あは。冗談よ。あなたがそんな偏見持って無いことくらい見てればわかるから。っていうかあなた、もしかして女性として見られるのが嫌?」 う、って、別にそういうわけでも……。 「ううん、ちがうわね。きっと性的な目で見られるのが嫌なんだ。そうじゃない?」 「はい……」 「だったら別にホステスじゃなくていいから。カウンターに入ってバーテンしててもいいわよ。男装の麗人っていうのもけっこう人気あるのよ」 「ありがとうございます!」 「そうね。こんど連れてってあげようか、参考に。男装の麗人がいるお店」 「おねがいします!」 なんだかこの人いい人っぽいし。 いいよね。僕、生きてても……。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加