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「そんなことないぞ!人を飲んだくれのように言うな!」
「はいはい、べろんべろんになっても屋根の上から降ろしてあげないよ」
「このくらいの屋根、酔ってたとしても1人で降りれる」
幸村は子供のようにムキになって言い返した。あまり他人と一緒にいることない才蔵がこれほど口数多いのは物珍しい。
2人の関係性について興味が沸いてきて、質問を投げかけてみた。
「あの、お二人はいつから一緒におられるのですか?」
「才蔵は俺が10つの時から真田家に仕えているんだ」
「そんなに幼い時からご一緒なのですね」
「才蔵は初めて会った時、確か14だったか」
「そーそー、あの頃の幸村はかわいかったよ」
「かわいい」というセリフに幸村はすぐさま反論した。
「おい、そう言われても何も嬉しくないぞ」
「本心だから仕方ないよね。刀稽古の時、いつも俺に勝てなくてさ、泣きそうになるの必死に堪えてたよね。なんでも一生懸命でさ」
「褒めてるつもりか知らんが、かわいいと言われて喜ぶ男がいるか!10歳でも武士としての誇りはあったんだぞ!」
「まーそうだろうけどさー、初めて幸村の真っ直ぐな目を見た時に驚いたんだよねー」
才蔵は幸村と出会った当時の記憶を遡り懐かしむかのように目を細めた。
「伊賀の里にいた同年代はギラギラしたのばかりだったからね、余計に」
才蔵はどうも伊賀の出身らしい。
「お前が育った里のことだ。10歳の幼子でも強者ばかりだったんだろうな」
「さあ、どうだろうねぇ」
「俺と才蔵の馴れ初めはこんな感じだ。次は弥彦のことを聞かせろ」
「え?俺ですか?」
「そうだ、たしか姉上がいると言ったな。実家は武家なのか?」
「いえ、俺の実家は…」
幸村とは店内で遭遇している。正直に小料理屋を営んでいると白状すればボロが出そうだ
余計なことは言わずに口をつぐんだ方がいいと判断した私は自分へ向けられていた話を逸らすことにした。
「俺の話なんて聞いても退屈ですよ。それより、幸村様と御屋形様のお話をお聞かせください」
「俺と御屋形のか?いいぞ。してやろう」
幸村は酒の入った瓢箪をひと撫ですると語り始めた。
「俺は幼い頃から父と共に御屋形様に世話になってる。御屋形様には恩があるんだ。その恩を返すために、俺は御屋形様の力になりてぇ。仁義の為に散って、武士の生き様を全うしたいんだ」
熱く語る幸村の横顔には計り知れないほどの覚悟と決心が滲み出している。
彼の話を聞いて、戦で亡くなった父のことが脳裏に過ぎった。
身近な人を失った者にはその決心は理解できなかった。
「おい、弥彦。俺の話を聞いているのか?」
「え?は、はい。大変ご立派な心構えだと感服しておりました」
「そうかそうか、お前は話の分かる男だ」
幸村は酔いが回ってきたのか身の上話をベラベラとし出すと、才蔵の肩へと手を回した。
「あっ、溢れる溢れる」
才蔵は幸村の手の中で大きく傾いた瓢箪をすかさず抑えた。
「才蔵も弥彦のようにもっと真剣に俺の話しを聞けー」
「聞いてるって」
「いや、聞いてないだろ!」
「はいはい」
「あの、才蔵さんにも幸村様のような覚悟があるのですか?」
「ん?おれ?ないよ。任務だからやってるだけ」
淡々とした返事を聞いた幸村はふっと笑った。
「お前らしいな」
「そりゃどーも」
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