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2人の間には強固な信頼関係が築かれているのだとやり取りから推測することが出来た。
立場や考え方は異なっていたとしても、長年時を共にするとお互いに心の内側が読めるらしい。
屋根の上にいる間に、眠気が僅かに襲ってきて欠伸が出そうになった。
「幸村様、俺はそろそろ失礼します」
「なんだ、もう寝るのか」
「はい、あとはお二人でごゆっくり」
「気をつけて戻れよー!1人で降りられるのか?」
「はい、大丈夫で……あっ!!」
立ち上がろうとした瞬間に捻挫した足首に痛みが駆け巡り倒れそうになってしまった。
「あぶねぇ!」
幸村の逞しい腕が転倒しかけた体を後ろから支えようとしたが、その手は間に合わずに胸の上へと当たってしまう。
「あ」
「え…き、きゃあーーー‼︎」
咄嗟に起こった事故に、男装をしていることをすっかり忘れて幸村の頬を勢いよく平手打ちにした。
夜空にパチンという小気味いい音がこだました。
平手打ちをされた彼は、頬を薄紅色に染め上げながら自分の手をまじまじと見つめている。
「弥彦、お前……」
幸村は数歩後退りすると屋根の上から落下し視界から姿を消した。
「ゆ、幸村さまっ!」
屋根の端まで駆け寄り下を覗くと、まだ掌を見つめる彼の身体が横たわっている。
「くっ…」
才蔵は緊急事態にも関わらず、さもおかしそうに呑気に笑っている。
「も、もう!!さ、才蔵さん!笑ってる場合ですか!」
「幸村は柔じゃないから落ちても平気だよ。大丈夫大丈夫」
才蔵はそう返事をよこすと再び堪えきれないといった様子で笑い出した。
だめだ、才蔵は完璧にこの状況を楽しんでいる。あてならない。
幸村の様子を確認してみるとまだ微動だにせずに落ちた時の体制のまま地面に横たわっている。
とにかく助けにいかねばならない。屋根を降りようと梯子に足を掛けかけると、武士たちが異変に気づき駆け寄ってきた。
下はあっという間に騒がしくなり、降りようにも降りられなくなってしまった。
「幸村様!何故そのようなところで寝ているのですか!?」
「む、そこにいるのは弥彦か?」
今降りていったところで、混乱し動転した頭では冷静に状況を説明することなど不可能だ。下に集まってきた家臣を無視して反対側の梯子へと泥棒のようにそそくさと移動する
「おーいい動き。くノ一になれるかもしれないねー」
その様子を楽しげに観戦していた才蔵がまたも冷やかしてきた。
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