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倒れ込んでいる二人を確認してみたが、峰打ちをしただけなのか誰も血は流していない。
店内は水を打ったように静まり返るなか、眼帯をした常連は倒れずに残る難癖をつけていた客にじろっと目をやった。
チンピラは刀を抜いたが、圧に押されたのか刀を持つ手がどうにも心許ない。
店内を出ようと出口の方へきたチンピラは、出口まで向かう道の途中に佇んでいた私に向かって刀を振り下ろそうとする。
「そこをどけぇ!」
そのタイミングで店内に入ってきた男が、私の背後から手を伸ばしてチンピラの手首を掴んだ。
「いててっ!」
手首を強く握られたチンピラは、力の抜けた掌から刀がガシャンと派手な音を立てながら落ちた。
後ろに立つ男性を見てみると、どうやら取り押さえたチンピラには微塵の興味も無さそうに真っ直ぐに眼帯の常連さんの方を見据えている。
「騒がしいと思えば、独眼竜が騒いでおったか」
私を振り下ろされかけた刀から救ってくれた男はパッとチンピラの手を離すと、眼帯の常連を見つけるやいなやお菓子を目の前に差し出された子供のように瞳を爛々と輝かせている。
「おい、独眼竜って奥州の伊達政宗のことなんじゃねえか…」
「またお前か…騒がしいのは一体どっちか…真田が何用だ」
子供のように目を爛々とさせた男は、そばに居たチンピラを軽々と眼帯の常連さんへと投げ飛ばした。
「いざしょーぶ!勝負ったら勝負!」
真田と言われた男から飛ばされてきたチンピラを、眼帯の常連さんは片手で掴み取り床に投げ捨てる。
転がり呻くチンピラを微塵も気に留めずに、じっと2人は睨み合う。
「武器は何を?」
「そんなものいらん」
真田はそう言うと、素手で十分だというように左手の掌で右手の拳を打ちつけ小気味いいパチンという音を鳴らす。
「武器を使わずとも戦える」といった真田の態度が癪に触ったのか、伊達は微かに眉根を寄せて懐に帯刀している鞘の刀の柄に右手をかけた。
「おやめくださいっ!!」
近くにいた真田の左腕の下腕を咄嗟に抑えた。
「なっ…何をするっ…」
「このお店を守ることが私の使命なのです」
腕を掴まれた真田は、動揺したのか薄桃色に頬を染めた。
眼帯の常連さんはいつのまにかその場から消えていた。そのことが分かると、掴んでいた腕を離し、小さく男に一礼した。
「失礼をして申し訳ありません。先程は私の身を助けていただいたというのに」
「いや…こちらこそすまん…その…勝手に…店に入っ…たりして…」
男は視線を泳がせながらぶっきらぼうな口調で謝罪を告げる男は頬をまだ赤くしていた。
ようやく事が収まり、私は店にいたお客さんに謝った。
「お騒がせして申し訳ありませんでした」
乱闘によってすっかり荒れてしまった店内の片付けを始めると、馴染みの客が手を貸してくれた。
「姉ちゃん、飛んだ災難だったな。姉ちゃんが謝ることさねぇよ。一部始終を見てたからな。」
「そうだわ。旦那様の言う通りよ。どうか気になさらないで。」
夫婦でよく訪れてくれている方が優しく声をかけてくれた。おばさんは安心しなさいと肩を優しく叩いてくれる。
「心遣いいただき、ありがとうございます」
私はバラバラになったかんざしに目を落としつつも一つ一つ、破片を拾い集めるが飾りの一部が見当たらない。どこにいったのだろうと懸命に床を探していると、先ほどの男が声をかけてきた。
「もしかしてこれか?」
差し出されたのはまさに探していた装飾部分だった。
「あぁ!それです!見つけてくださりありがとうございます!」
両手で受け取りお礼を伝えると、男は照れ臭そうに頬をピンク色に染めた。
「壊れ…ちまったみたいだな…」
ぶっきらぼうに言うと男は足早に店を去っていく。
掌で壊れたかんざしを繋ぎ合わせてみたが、パーツは揃っているものの、並べてみると余計に痛々しい無残な有様に映る。
「姉ちゃん、それ、親父さんが祭りで買ってくれたものなんだろう?」
「えぇ…」
色々な感情が渦巻きそろそろ限界だった私は店を一旦出なければと、廊下を歩き外に足を出した。
「ねぇちゃん!」
「待ちなさい、弥彦」
引き止めようとする弥彦を母が止めた。
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