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フライドチキンのおじさんの幸せ
「で、慎吾さん、ちょうど三千円のクオカード二枚持ってたんで、私と本田さんにくれたんですけど。
私がもらうのも変だなと思って、私の分も本田さんにあげたんですよ」
夜、繁華街への道を蘇芳と歩いていた唯はそんな話をした。
これから二人で呑みに行くのだ。
「なんだ、その本田の焼け太りは。
俺も一万円やったぞ」
と蘇芳は言い出す。
何故、三千円の宝くじを落として一万円……と思ったのだが、蘇芳は、
「可哀想だろ。
落ち込んでるし」
と言う。
この人、実は、一万円以外の単位の金を知らないのだろうかと思う唯は、蘇芳が、宮本の忠告により、最近では本田を二、三千円で買収していることを知らなかった。
「あいつ、今度、友だちにもご飯おごってもらうそうじゃないか。
なくした宝くじのおかげで、大儲けだな」
「わらしべ長者はわらしべ拾って儲けるけど、本田さんは、落として儲けるんですね」
と唯は笑う。
「でも、運気を落としてしまったって、しょげてますよ」
「行いの悪い本田には過ぎた運気だったんだろ」
いや、三千円当たっただけですよね……。
まあ、三千円、私には大金ですが、と思いながら歩いていて、気がついた。
此処は、あのフライドチキンのお店のある通りだと。
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