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もう閉まっているお店の前で、おじさんは今日も静かに微笑んでいた。
なんとなく唯はおじさんを拝む。
すると、蘇芳が横で柏手を打ち始めた。
二人で拝んだあと、唯はふと思いつき、言ってみた。
「知ってました?
1890年9月9日にこのフライドチキンのおじさん、お産まれになったそうですよ」
「ほう。
ということは、そんな昔から、俺とお前は結ばれる運命にあったということだな」
なんでだろう。
慎吾さんと同じこと言っているのに、蘇芳さんに言われると、すっと頭に入ってくるな。
そう思いながら、唯は蘇芳を見上げ、照れたように訊いてみた。
「……運命なんですかね?」
「運命だろう」
確信を持って蘇芳は頷く。
ごく自然に蘇芳は唯の手を取り歩き出した。
恥ずかしげに、だが、その手を離すことなく、ついて歩き出した唯は、一度おじさんを振り返る。
真正面を見て微笑んだままのおじさんに向かい、ぺこりと頭を下げた。
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