Answerとは何か

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   見えたはずの家族の笑顔は、あっという間に消えた。  ただ……与えられたキスが、私の胸を痛めて止まない。    際限のない行為を、その日、体力が果てるまで続けた。  翌朝目が覚めると功太はまだ寝ていた。  私は脱ぎ捨てたままのバスローブと下着を掴んで纏うと、慌てて部屋を出る。    今になって嫌な動悸が止まらない。  そのくせ、どこかスッキリした体が、動悸と裏腹に笑顔を作らせてしまう。  はは、と漏れる笑い声が、昨日の彼と同じように(かす)れている。  好きだなんて言葉はもちろんない。  ただがむしゃらに欲しただけ。  溺れて沈みかけている私を、助けてって。  彼はそのSOSに的確に答えてくれただけ。  利用したのは私で、彼は私に正しいanswerをくれた。    チラつく夫と子供の顔が、涙にぼやける。  消えることなんてないくせに、涙のせいにして私は見えないふりをした。    『ごめんなさい。雪で電車が動かないみたい』    帰宅予定の土曜日の夕刻。    私は、嘘を重ねて夫に連絡をした。  1日だけ帰りが遅れると言うと、実家にいるから大丈夫と言われて安堵する。  安堵と同時に、頭から夫と子供の顔を静かに消した。  マヒする感覚が、上手に消すことを覚え始めている。  それが怖いのに、今の私はそれに蓋をする。  蓋をしながら、横に立つ彼にちらりと視線を送ってanswerを強請った。  暗く、苦く笑いながら彼の指先が私の耳を引っ張って広げる。  痛いというのに引っ張って、かっぽじって聞けとばかりに低く囁いた。  まるで、俺が悪魔だというように。  「孕んでもしらねーぞ?」  (あざけ)るように嗤いながら、彼は私を抱き寄せて離さない。
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