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助けてほしかったのは私だったはずなのに、いつの間にか私は加害者で、夫も先輩も被害者になっていた。
何がいけなかったの?
何が悪かったの?
助けを求めてはいけなかったの?
傷口を塞いでほしいと望んではいけなかったの?
たくさんの疑問が私の中を渦巻くのに、何一つ答えは返ってこない。
一方彼も、奥さんと離婚し、親権も譲ったと聞いた。
その奥さんは、離婚した以上仕事が必要だと言い、本社に臨時社員として復帰したらしい。
相当肝が据わっていると、それ以上のことをしでかしたくせに思ってしまう。
一部の噂に、私と功太が同居を始めたと出回っているけれど、そんなことはしていない。
時折、忘れそうなタイミングで。
それも住まいとは違う、他県の離れた場所で。
ほんの少しの時間だけ、逢瀬を重ねている。
もう今となっては……私が信じられるのは、彼一人だけしかいない。
離婚してどこか晴れ晴れしているはずなのに、やるせない空虚さをお互い抱えるのを知りながら、彼は私を抱き寄せる。
有無も言わせず強引に。
その度、優しくなんてしてやらないと嘯いて、彼は私を意識が混濁するまで抱く。
わざといやらしく私を抱く彼は、意地悪なくせに誰よりも優しい嘘つきな人だ。
家族を捨てて
戸籍を捨てて
住まいを捨てて
仕事を捨てて
私は傷だらけの体のために、何もかもを捨てた。
全て、全部捨てた。
こんな私を、他人がどう言うのかなんて知らない。
あんな優しい旦那さんをどうして――
子供さんまだ小さいのに可哀想――
同じ会社で不倫だなんて――
どんな声も、聞こえてきては泣きたくなる。
不倫はいけないことだ。
でも私がしたのは不倫……だったのだろうか。
不倫なんだろう。
でも、私にとってそれは不倫じゃない。
そうじゃないと言ったところで、そうなんだろうけれど。
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