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まどろみかけていた意識が、パチンと弾けて覚醒する。
目をパチパチと開閉すると、くく、と苦く笑われた。
定年ってどれだけ先だと思っているの、そう思うのに言葉にならない。
好きだなんて言わない。
愛だなんて言わない。
でも私は、彼が――
「功太が、生きていたらね」
あはは。
笑って答えると、言ったなこの野郎と彼が私の上に跨った。
目が合うと、同時に笑顔が浮かぶ。
重なる視線が絡んでから、どちらからともなく唇を手繰り寄せた。
私たちに幸せな日々なんて来ないかもしれない。
それでも私は――この人がいる限り、全部捨てても生きていく。
END
全てを捨てて だから私は……生きている
By 桜倉ちひろ
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