Answerとは何か

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 「全力で鼻かみますね、豪快に」  「んな……ッ」  「さぁすが、きもったまかぁちゃんは違いますね」  「ちょ、見ないでくださいよ!!」  「ははは」  さっきまでの私の暗さなんてなかったようにして煙に巻いて、私の鼻かみよりも豪快に彼は笑った。  つられて私も笑ってしまう。  この人は、人の毒を抜くのがうまい。  「優花さん」  「はい?」  「笑ってる方がいいですけど。泣いてもいいんですよ。怒ってもいいんですよ。人間ですからね」    意味深な言葉に、彼の瞳の奥を探った。  でも、答えはそこに見えずに、黒の虹彩の奥に仕舞われてしまう。  それでも温かな何かが私に流れてきたのは確かで、それは傷に沁みることはなかった。      それから幾度となく、私は会社で醜態をさらした。    今ならきっと、メンタルクリニックを薦められてもおかしくないほど、不安定な状態だった。  それでも会社の人間は見て見ぬふりを続ける。  けれどそんな私を、彼はそっと隠してくれた。  倉庫の奥に潜んで震える私を、涙を流す私を。  いつの間にか、彼がそっと、上手に、誰にも気づかれず。  優しく包んで蓋をしてくれるようになった。  小さな傷が少しずつ消えていく。  傷つけられる数も減っていく。  当然だ。傷をつけられない盾ができたのだから。  夫は会社の私に気づかない。  泣いて苦しむ私に目もくれない。  好きなように付き合いだからと飲みに出て。  眠れないと縋る子供を放って、自分一人、安住の地で眠る。  私に安住があるのかどうか、考えもしてくれない。  それから……女として見られている気配もない。  労わってくれる様子もない。  話を聞いてくれる様子もない。  少しずつ、見えないところで、何かが大きく崩れ始めていた。
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