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「5年ですよ」
パーの手をひらひらさせて、微笑んだ。
もう笑う以上のことなんてできない。
そういう儚い嗤い。
スマホの普及とともに、アプリゲームが急速に広まった。
ちょうど5年程前。私は2人の子育てに必死で、仕事に復帰したばかりなこともあってカリカリしていた。
それらも相乗効果だったのだろう。
夫は家事のフォローは多少してくれるけれど、それで十分俺はやっているという自己満足派。
確かに、社内の他の男性よりはしているのかもしれない。ただ、私にはそれでは足りなかっただけかもしれない。
それでも結果的に、それらが重なって私たちはどこか良き夫婦の仮面をかぶった夫婦になっていった。
今、その仮面の時間に気が付いて、ゾッとした。
もう、5年もしていなかっただなんて……今の今まで気づきもしなかった。
つまり、気づかぬ程度に――夫からの誘いもなかったってこと。
「あー。じゃあ、俺の勝ちかな」
「勝ちってなんですか、勝敗はないでしょ」
「いやーだって。俺その倍だし」
ハハと笑う乾いた声が、痛い。
喉を傷めているわけでもないのに、痛めているんじゃないのかと心配になる乾き方。
両手をパッと広げて、数字として見せた顔の上。
その10が、彼の顔に影を作る。
そのままベッドに腰かけていた彼は、後ろにパタンと倒れこんだ。
その転がる姿が、痛々しくて見ていられない。
声のかすれが気になったフリをして、ミニ冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
立ち上がって覗き込んだけれど、掌が邪魔をして私とは目が合わない。
それでも無言で渡すと、気が付いてくれたのか静かに受け取ってくれた。
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